物語

3つの絶望と破滅が、発展と貧困がモザイクのように色なすカザフスタンで交差する。







この映画の主題は3つの絶望と破滅だ。それは中国から逃げて来たウイグル人の少年アユブ、裕福な両親を持ちながら無為な生活を送るカザフ人の少年カエサル、そして養父に虐待を受けて家を飛び出し街娼として生きるロシア人の少女マーシャの3人の絶望だ。

アユブは、両親が不当に逮捕され中国から逃げて来たウイグル人の子供。やっとの思いで国境を越え、経済的には豊かなカザフスタンへ逃げてきたが、生活は苦しく、しかも両親の元へ帰れる可能性は限りなく低い。1950年代以降、このアユブ少年のように中国から逃げて来たウイグル人は数多くいる。その多くは、必死に耐えて家を興し、今では豊かな暮らしをしている。だが、今のカザフスタンでは貧富の差が大きくアユブが世に出て行くのは簡単ではない。両親への思いを募らせることによりできた隙間に、自爆攻撃という非人道的な方法論が入り込み破滅への道を進んでしまう。

また、裕福な家に育ったカザフ人の少年カエサルにも絶望と破滅はあった。両親は政権中枢の要職にありながら、カエサルは憂鬱と退屈に支配され、無為という自滅の道を選んでしまい、家とは決別し、アユブやマーシャたちのいる建設途中で打ち捨てられた廃屋での生活を送っている。全てが満たされた生活は中央アジアにはそぐわない。カエサルは刺激と冒険を渇望してしまう。ホモセクシュアルな外国人との駆け引き、凄惨な喧嘩。だが、カエサルの安住の地は何処にも無く、どこまでいっても満たされない。カエサルは全てが絶望だ。カエサルのイライラ感は募り、彼の破壊への指向は自分の生き様に向けられる。

ロシア人の少女マーシャは養父に性的虐待を受け家を飛び出したものの、頼る術もなく街娼へと身を落とす。マーシャは文字通り自分の体を刻んで売る生活をしている。将来の夢も希望も無く、その日その日を死んだ母親の幻の世界に生きている。いつしか、彼女の体は次第に蝕まれていた。彼女自身はそれを知っている。彼女は破滅していくことだけが希望だった。

3人の破滅は、発展と貧困がモザイクのように色なすカザフスタンという独特の風土の中で交差する。