1971年、あるフランス人学生が、大人気コミック「タンタン・シリーズ」の作家エルジェにインタビュー申し込んだ。そのインタビューを記録したカセットテープは、30年の間、人目につかない場所に保管されてきた……。エルジェが時代の空気を投影させてきたタンタン・シリーズは、単なる子ども向けのコミックにとどまらず、20世紀の苦悶の歴史の年代記にもなっている。ドイツ軍占領下でナチスの協力者と批判されたり、妻以外の女性と恋に落ち、激しい罪悪感に苦しんだ私生活での窮境が、いかにタンタンのストーリーにも影響しているのか。
世界50カ国語以上に翻訳され、2億5千万部以上が販売されている人気コミック「タンタンの冒険」シリーズ。『なぞのユニコーン号』『レッド・ラッカムの宝』『金のはさみのカニ』は、今年公開されたスティーブン・スピルバーグ監督作『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』('11)の元になっており、世界的に有名なフランスの漫画家、メビウスもタンタンの大ファンであることを公言している。
知恵と勇気で難問題を解決し、友達思い。ソビエト、中国、チベット、南米、はては海底や月まで冒険の旅をする少年記者タンタンは、山のような資料に埋もれながらデスクで漫画を描いているエルジェにとってもまた、理想の姿であったのだ。
本名ジョルジュ・レミ。1907年ベルギー・ブリュッセル生まれ。1923年より「ベルギー・ボーイスカウト」誌に作品を発表しはじめ、1928年に新聞の若者向けウィークリー増刊号「プチ20世紀」のチーフ・エディターとなり、翌年「タンタン、ソビエトへ」が同紙に掲載。またたく間に人々の人気を博し、以後24話のタンタン冒険シリーズを残す。ヨーロッパ・コミックの父と称される彼の作品は、今日においても様々なアーティストに影響を与え続けている。