エルジェはひたすら生真面目な職人だった。自由奔放な想像力を支える、徹底したリアリティへのこだわり。やはりそういう人だったんだな。そうして時代と向きあうひたむきさを原動力に、死ぬまで成長し続けた。うれしいなあ。クリエイターの内面奥深くにまで分け入るような、アイディアに満ちた映像表現もすばらしい。
エルジェと私で根本的に違うところがある。
エルジェは自分のやりたい表現をすることを、
私は職業として娯楽作品を描くことを常に考えている。
自分のやりたいことをやって作品が成り立つエルジェが、うらやましい。
僕は2002年に東京・渋谷で開催された「タンタンの冒険」展に三回足を運んだ。そこで見たタンタンの下描きは壮絶なものだった。何度も何度も消しゴムで消された跡、切り貼り、修正。そこにあるのは華麗さとはほど遠い努力と執念の跡だった。
この映画のすばらしさは、なんといっても1971年に録音されたエルジェの肉声が、きこえることである。私が会ったときの誠実な印象そのままに、エルジェは自分よりずっと若いヌマ・サドゥールを精神分析医に見たててすっかり信頼し、こころの苦しみを吐露している。