映画『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』

この映画について

日本の現状について

浅井隆(アップリンク)

映画のデジタル化は、カメラ、ポストプロダクション、上映素材、プロジェクター、保存と分けて考えることができる。

映画製作で最も早くデジタル化されたのはポストプロダクションで、編集やカラーコレクションなどがそうである。デジタルカメラの画質が35mmフィルムに劣る時代は、撮影はフィルムで行い、そのフィルムをデータに変換してデジタル上でポストプロダクションの作業を行う方法がとられた。その作業をDI(Digital intermediate)といい、映画館でフィルム上映がまだ主流だった2000年代初期は、DI作業を経た後、データをフィルムに再度変換してネガを作り上映用プリントを作成した。現在では映画館でのDCP(Digital Cinema Package)での上映が主流となっているためフィルムに変換されることはなく、DI作業を経たデータをDCPデータ(現状では2Kが主流)に変換して上映用素材を作るのが標準となっている。またフィルムでの撮影は高価なものとなり予算に余裕のある作品でしか選択する事はできず、日本国内のインディーズ映画においてはほぼ全ての作品がデジタルカメラで撮影されている。

映画館のデジタルシネマ化が進むことで、配給会社が扱う上映素材もフィルムではなくDCPが標準となりつつある。2010年には、映画館においてのデジタルシネマ化のコストが多額になるため、VPF(Virtual Print Fee)という金融システムが日本にも導入された。映画館がデジタルシネマ化すれば、配給会社が35mmプリントを製造するコストが軽減し、そのかわりにヴァーチャルなプリント代を払うというもので、2012年には、ほぼ全てのシネコンでこの金融システムが導入された。

ただ地方やミニシアターにおいては、映写のデジタル化ができなければDCP上映ができなくなることが問題となっている。映画館のデジタル化の負担を肩代わりしVPFシステムを管理する「サービサー」と呼ばれる会社も、地方の小さな映画館や名画座などからはVPFの回収が困難と判断し、デジタルシネマ化を行わないためである。そのようにデジタルシネマ化が遅れている映画館においては現在、35mmフィルムと、HD画質のプロジェクター、ブルーレイディスクでの上映を行っているところもまだ多い。アップリンクでは、そのような小さな映画館の生き残り策として、DCI仕様に準拠したDCPサーバーと、DCI準拠ではないが高画質のプロジェクターでの上映を勧めている。

プロジェクターの画質について、現在は、民生機も4Kのものが発売されているほど、2Kでの撮影が主流の制作現場より技術は進んでいる。近い将来、撮影、上映とも4Kが主流になる時代が予想される。

本作でも語られているように、デジタルシネマの一番の問題は、上映されるデータの保存である。ハードディスクはいつかは壊れるので、提案として国立近代美術館フィルムセンターで、巨大なサーバーを構築し、日本映画をデジタル化して保存する設備を作り、将来にわたり映画文化の保護をすることが望まれる。

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