『光のノスタルジア』『真珠のボタン』

光のノスタルジア

Introduction

「宇宙の壮大さに比べたら、
チリの人々が抱える問題はちっぽけに見えるだろう。
でも、テーブルの上に並べれば銀河と同じくらい大きい」
P.グスマン

チリ・アタカマ砂漠。標高が高く空気も乾燥しているため天文観測拠点として世界中から天文学者たちが集まる一方、ピノチェト独裁政権下で政治犯として捕らわれた人々の遺体が埋まっている場所でもある。生命の起源を求めて天文学者たちが遠い銀河を探索するかたわらで、行方不明になった肉親の遺骨を捜して、砂漠を掘り返す女性たち……。永遠とも思われる天文学の時間と、独裁政権下で愛する者を失った遺族たちの止まってしまった時間。天の時間と地の時間が交差する。

映画『光のノスタルジア』『真珠のボタン』

Director’s Voice

アタカマ砂漠

塩と風から成る、時のない広大なアタカマ砂漠。火星によく似た風景が広がっている。動くものはなにもない。だが神秘的な過去の痕跡に満ちている。2000年以上前の村の廃墟があり、19世紀の鉱夫たちがそのままにした列車が、砂の中に打ち捨てられている。空から落下した宇宙船のようなドーム型の建物には、天文学者たちが滞在する。あちこちに遺体が埋もれ、夜には眩い銀河が砂の上に影を落とす。

見えない現在

天文学者にとって、現在とは過去から届けられるものだ。星からの光は何十万年もかかってわれわれに到達する。それゆえ、天文学者たちが見ているのは、過去である。これは歴史学者、考古学者、地理学者、古生物学者、そして行方不明の肉親を探す女たちにとっても同じことだ。彼らは共通点を持っている。現在、そして未来をより理解するために、過去を見ているのだ。不確かな未来の前では、過去だけが私たちを照らす光となる。

見えない記憶

記憶は私たちの生を保障する。太陽の暖かさのように。人間は記憶なしには存在できない――脈打たず、始まりも未来もない。18年にわたる独裁政権の後で、チリは今ふたたび民主主義を経験しようとしている。しかし、代償は大きかった。多くの者が友人、肉親、家、学校、大学を失った。そして多くの者が、永遠に記憶を失ったのだ。

映画『光のノスタルジア』『真珠のボタン』