映画『聖者たちの食卓』


聖者たちの食卓

監督について

フィリップ・ウィチュス監督のことば

食事と言えば、皿の上にどんなものが載っているか、私たちはいつもそればかり気にしています。でも私は、食べることを通して得られる充足感だけではなく、それ以外の部分を考えていました。それは、食べることに対する姿勢、そのために使う調理道具、一緒に料理を食べる人たち、食事をする場所についてのことです。16世紀に建てられ、いかなる権威にも束縛されていないハリマンディル・サーヒブ( 黄金寺院)のキッチンは、極めてシンプルに「共に生き、尊敬し合う」という根本原理を貫いています。そしてきっちりと確立した衛生管理や、「食べる」事の基本であるにも関わらず、つい見過ごされがちな” お互いに与え合う” という行為においても、しっかりと反映されています。

この映画には、不要な調理道具や、見栄えだけはいい調理の様子、いったいどこで手に入れたの?という珍奇な食材や、SF映画に出てくるようなキッチン用具などは一切登場しません。ただ水と火とフライパン、大地から採れる食材と、それを調理する男女が登場するだけです。私たちは、いまこそ千年前の教えに立ち返り、そこに息づき受け継がれてきた知恵や教えに目を向けるべきなのだと思います。そうした日々の行いが、何世紀もの長い年月を越えて、そこで積み重ねられてきた知識を実践する場となり、こうした形で花開いているのです。そうでなければ、貧しき人々に10万食の食事をランガルとして、無料で与えることができるような食文化がうまれたでしょうか?

あらゆる年齢の、何千人もの人々と一緒に足を組んで座り、ひとつの食卓を共にするという体験は、緊張を伴いました。しかし同時に、いかに自分が毎日幾度となく行われる食事という儀式をおざなりにしてきたかを思い知らされました。

グローバリゼーションという常套句や、規格化された食品、お持ち帰りといったコンセプトが当たり前となった今だからこそ、このキッチンが時代を越えてシェアしようとしてきたものを、世界の人に見せる時なのだと思います。それが、私がこの映画を通じて、美味しい物が溢れていても、どこか満ち足りない思い(空腹)を感じている現代人に届けたいことなのです。

聖者たちの食卓

フィリップ・ウィチュス Philippe Witjes

1966年生まれ。映像作家兼フリーの料理人。料理評論家としても活躍中。ブリュッセル国内で食に関連したさまざまなプロジェクトに携わるほか、マダガスカルやセネガルなど世界各地で1000人分以上の食事を作るボランティアもしている。


ヴァレリー・ベルト監督インタビュー

Q 黄金寺院を撮ろうと思ったきっかけは?

2010年に『Sarega』というインドの伝統的な音楽についてのドキュメンタリー映画を作りました。調べている中でパキスタンに行かなければなくなり、インドにある、パキスタン国境の街、アムリトサルに滞在しました。国境の国旗降納式を待つ間、黄金寺院で数時間過ごしました。そこでボランティアの方がキッチンを見せてくれました。大人数の食事を作る姿に感動した私たちは写真を撮り、録画し、帰国後「黄金寺院」という5つの短編を制作し人々に見せました。またロッテルダム映画祭やニューヨークのMoMAでも上映されました。そしてこの素晴らしい場所を世界に見せなければいけない、と思いました。

Q 初めて黄金寺院のキッチンへ行ったときの感想は?

初めて訪れたとき、驚くほど効率良く、途方もない人数分の食事を提供していることに感動しました。とても強烈な場所で、組織されたカオスのように見え、同時に深い静けさがあります。

Q 撮影期間はどのくらい?

その後、再度黄金寺院へ戻り、3週間かけて建築物や人々の動き、そして日中の光などを把握できるように観察したり、写真を撮ったりしました。そしてほぼ一年後に撮影のために現地を訪れました。撮影には一ヶ月かかりその期間中、毎日、寺院に足を運びました。

Q 寺院内の撮影がNGだったそうですがどうやって許可をとったのでしょうか?

池の周りと黄金寺院の中の撮影はNGでしたが、私たちの撮影意図を説明し、許可をお願いしました。このプロジェクトの趣旨自体、キッチンがメインだったため、問題はありませんでした。申請書の権限を誰にもらうかなどを確認する時間はかかりましたが、待ち時間には寺院内の事務所でお茶を飲み、人々はとても親切で自分たちの行いに誇りをもっているようでした。

Q ランガルを食べた感想は?どんな味ですか?

シンプルな味付けで、とてもおいしいですよ!

聖者たちの食卓

ヴァレリー・ベルト Valérie Berteau

1975年生まれ。ブリュッセルの大学でビジュアルコミュニケーション、写真を学んだ後、フォトジャーナリスト兼映像作家の道に進む。NGO団体などと一緒に、多くのプロジェクトのコーディネーターとしてクロスオーバーに活躍している。


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