香港、裏切られた約束香港、裏切られた約束

イントロダクション

香港人の思いを伝えたい~パティシエから難民へ香港人の思いを伝えたい~パティシエから難民へ
香港人の思いを伝えたいという一念で2019年6月を初めに香港民主化運動を記録しなければと、当時パティシエとして貯めたお金で一眼レフビデオカメラを買ったばかりのトウィンクル・ンアン(顔志昇)。
撮影後、逮捕を逃れるためロンドンに亡命し映画を完成させ5年目の節目に問うドキュメンタリー!
『香港、裏切られた約束』は、政治と社会の激動期に愛する家族、友人、そして故郷香港を守るため、人生と情熱を捧げた香港市民の姿を命懸けで記録し続けたドキュメンタリー映画。愛する故郷と母から離れることを引き換えに、この事実を映像を通して世界へ広める事を選択した監督の決意の作品。

守られなかった「一国二制度」

1997年7月1日香港は、イギリスから中国に返還された。中国政府は返還時に少なくとも50年間(2047年まで)「一国二制度」の下で香港市民の自由は保護されると約束した。2019年6月中国本土への犯罪人引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正をきっかけに民主化を要求する200万人に及ぶ香港市民の抗議活動が始まった。
このドキュメンタリーは、フィルムメーカーを目指すトウィンクル・ンアンが2019年6月4日の天安門事件30周年記念の集会に新しいビデオカメラを試しに行ったことから始まった。

映画ができるまでの時系列

2019年6月

ンアン監督の撮影は6月の天安門事件30周年記念の集会に新しいビデオカメラを試しに行ったことから始まる。数日後の6月9日、100万人の香港市民が引き渡し条例改正案に抗議し街頭に出た。彼は再び撮影に行き、特に目的もなく傍観者としてその様子を記録しその後も抗議が激化する中で撮影を続けた。11日、12日に抗議活動のムーブメントがありその後数週間にわたり多くの抗議活動を目の当たりにし、彼らがなぜ抗議をしているのか、その動悸と情熱に興味を持ち、まず理解しようとカメラを回し始める。

2019年7月

撮影中、自身が催涙ガスを撃ち込まれた時、防護具なしで痛みに苦しみ、呼吸困難になっていたところ、行進していた人々は振り返り傘で作られたシールドの後ろに引きずり込み、誰かが目を洗ってくれて、そして安全な場所へとレスキューしてくれた。この出来事にンアン監督は感動し、自分はただの傍観者ではなく、この社会運動の一員であるということを自覚、映像を撮ることが自分の中で非常に真剣なものに変化していった。

2019年9・10月

ンアン監督は撮影中に放水銃で撃たれ、腕とカメラが青く染まったり、ペッパースプレーを浴び、腕の皮膚が赤くなるといった出来事が続く。

2019年11月

ンアン監督は放水銃で撃たれてしまい、撮っていたカメラのハードディスクが水で損傷、他のメモリーカードは容量が小さいもので撮影に使うことが出来なかったので目の前で起こっている出来事をもうそれ以上、記録し続けることができない状態に陥る。しかし、偶然にもそこに居た外国メディアの記者に声をかけ助けを求め、容量の一番大きいメモリーカードにあった60ギガのデータを記者のラップトップに転送させてもらい、そのメモリーカードのデータを削除して容量を空け撮影を続けた。その外国メディアの記者とメールアドレスを交換していたので、脱出後、彼に連絡をとり映像データをダウンロードするためのリンクを送ってもらう。この全ては、外国メディアの記者とンアン監督との、見知らぬふたりの間にある純粋な信頼から生まれた出来事であった。

2019年11月 - 同月

香港理工大学に閉じ込められていた時警察との衝突があり、それは重大な出来事となる。一部の学生たちは、ンアン監督に逃げることを提案してくれたが、その時は皆、警察が後に報復することを信じていた。閉じ込められている最中、ずっと友人や家族と絶えず連絡を取りながら、多くの人々がンアン監督の脱出方法を見つけようと最善を尽くしてくれた。しかし、ンアン監督はその場に留まりたいと思ったのだ。ある学生は、カメラを手放せば解放されるか、少なくとも逮捕された場合でも警察が映像を見つけることがないだろうと提案してくれたが、ンアン監督は映像を守り、故郷香港のために戦う人々の物語を伝える義務を強く感じていた。香港への共通の愛に基づく非常に強い人々の友情や絆に引き込まれた監督は、彼らを裏切ることはできなかった。

その後、ンアン監督は幸運にも駐車場の裏口から逃げ出すことができた。しかし、その他多くの人々はそのような運には恵まれなかった。

このような出来事が重なり、撮影した映像は多くの人々に救われ、ドキュメンタリー映画が実現した。

監督

トウィンクル・ンアン

トウィンクル・ンアン

顔志昇
Twinkle Ngan

1987年、中国福建省生まれのドキュメンタリー映画監督。1歳の時、香港、北角に移り住む。そこはンアン監督の家族や親戚含め、中国支持者の多い地域だったが彼は常に自分を香港人だと認識し育つ。パティシエとして貯めたお金でビデオカメラを購入し、映画の撮影や編集は全てYouTubeのチュートリアルで学んだ。2019年6月4日ビクトリアパークでの天安門事件の集会へカメラを試しに歩いていた時から始まり、その後何回にも渡りデモに遭遇する。彼らがなぜ抗議をしているのか、その動悸と情熱に興味を持ち、まず理解しようとカメラを回し始める。7月21日に警察に撃たれ怪我をした時、この映像を撮るのが真剣なものへと変化した。香港理工大学に最後まで残り撮影を続け、故郷香港のために戦う人々の姿を世界に伝えなければと決意する。

ンアン監督が2021年11月にロンドンに足を踏み入れたその日から、亡命を申請するとパスポートを提出しなければならないため、旅行ができなくなることを知る。彼は2022年4月スイスでのヴィジョン・デュ・レール:ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭に参加するため6か月間のビザなし期間がほぼ切れるまで亡命申請を保留。スイスから再入国した際、英国の国境管理官から、次回は有効なビザがないと入国を拒否されると告げられその後、ロンドンにて亡命申請を提出。2024年1月、正式に難民となる。これまでにオーストラリア、アメリカ、ポーランド、ドイツ、カナダなどの都市で上映をおこなう。イギリスではこれまでに20回以上の上映が行われた。民主化運動から5年目という節目の今年、日本で行われた指名手配犯の記者会見の映像を加え、日本で商業映画館で初めて上映を行う。

監督のメッセージ

「2019年の香港の抗議運動に関わるようになってからです。以前は香港のごく一般の市民でしたが、2019年以降、自らその物語の語り手になる必要性を感じました。私たちは香港人として、どのようにこの困難な時期を乗り越えたのか、そして未来に向けて何を期待しているのかを伝えたいと思っています。

『香港、裏切られた約束』は、香港の一般市民の闘志と愛を記録するために制作されました。映画の中で、私たちは抗議者たちの個人的な物語を通じて、彼らがどのようにして困難を乗り越え、香港のために戦い続けているのかを描いています。例えば、香港理工大学の包囲中に負傷者を救助し続ける 救急隊員や、警察の暴力に直面しても退かない抗議者たちの姿があります。

ほとんどがアマチュアで構成されたチームは、制作の過程で数々の困難に立ち向かいました。最後まで立ち上がり、私たち全員が愛する香港のために何かを成し遂げたいという強い思いで突き進みました。英国でのポストプロダクション作業において、地元の技術スタッフは中国共産党とのトラブルに巻き込まれるリスクを恐れて仕事を辞退していきました。しかし、私たちの強い信念と香港への愛が、この映画を完成させる力となりました。

この映画を通じて、香港の自由と民主主義を守るために戦う人々の勇気と犠牲を忘れないでください。私たちは未来を信じて、共に前進していきましょう。どんなに困難な状況でも、希望を持ち続けることが大切です。映画『香港、裏切られた約束』が、皆さんにとってその希望の一端となることを願っています。」

ストーリー

映画は、愛するもののために立ち上がった6人のごく普通の一般市民の物語を通じて、希望と絶望、愛と心碎を体験し、故郷を守るリアルな姿を描く。映像は、観客を抗議の最前線へと連れて行き、香港の一般市民の生の声を届けると共に、今尚続く人権侵害や世界中で高まる独裁主義の脅威に気づかせ、隣国である日本の未来にも問いかける。映画の最後には、2024年6月に東京の衆議院議員会館で行われた記者会見の模様も収められており、香港当局から指名手配された民主活動家たちの姿が記録されている。

登場人物

  • シャンとキット

    シャンとキット
    (前線で戦うカップル)

    シャンは自分が重荷になることを恐れて、自らを強化することに努め、キットの決意に匹敵する決意を持つようになる。

    現在の状況

    映画製作期間中は連絡を取り続けていたが、2020年6月30日の国家安全法の施行以降、彼らの行方は不明。
  • ライ·リヤ

    ライ·リヤ
    (南アジア出身の女子学生)

    「この運動に参加して、中国の血統を持たずとも香港人になれると知った」

    現在の状況

    ネパール人の少女は暴動罪で50か月の刑を宣告され、刑務所で服役中。
  • 仮面姿のリーダー

    仮面姿のリーダー
    (権威主義の影に対する反抗の炎)

    「私たちの未来、私たちの肉体と血液、そして私たちの命がかかっている」

    現在の状況

    警察が自分を逮捕する計画を知った翌日に香港から逃亡し、現在彼は、英国で亡命生活を送っている。
  • デイビッド

    デイビッド
    (元暴力団の男性)

    「痛ましい光景に胸が締めつけられる」と彼は言う。
    無数の家族が耐えた痛みを思い出しながらも、その声は震える。

    現在の状況

    2022年、彼は英国を訪れましたが、その後家族の用事で香港に戻った際に逮捕、起訴され、裁判にかけられたが無罪となる。ところが無罪にもかかわらず、当局は彼のパスポートを没収し、その後、彼とは連絡が取れなくなり、現在まで彼の行方は不明。