コメント
なぜ、マイク・ミルズは
日本の抗うつ服用者の映画を撮ったか。
─川勝正幸
マイク・ミルズが『サム・サッカー』(’05)の宣伝で来日した時、「今、日本のうつ病患者のドキュメンタリーを撮影中」と語った。ん?と思ったものの、深追いせず、スルー。しばらくしたら、自分が抗うつ剤を飲む身になっていた。ところが、父の死で長男としてのミッションを果たしているうちに治った感があり、「うつは脳内のセロトニン不足の影響が大で、それを薬で支える」という治療法に疑問を投げかけた本も読み、医者と相談してパキシルとトレドミンの服用を徐々に減らし、薬ゼロの日々が9ヶ月以上続いている。
11月20日、マイクの未公開作『DOES YOUR SOUL HAVE A COLD?』(‘07)が代官山〈LLOVE〉で特別上映された。まず、スカイプでマイクが撮った動機を話す。日本の友人が抗うつ剤を飲んでいたこと。そのきっかけが、日本で’99年から始まる「あなたは心の風邪をひいていませんか?」に代表される、欧米の製薬会社による広告やネットのうつ診断サイトでのキャンペーンであったこと。どうやら彼はアメリカ人として“責任”を感じているらしく、日本の人々に観てもらうのはうれしいが、緊張するとトークをシメ、愛犬を膝に抱き上げて手を振った。
映画の構成はシンプルだ。’06年春と夏の、5人の抗うつ剤服用者―ミカ(20代で、医薬品の配達をし、母と同居)、タケトシ(37歳で、仕事は持たず、画を描き、両親と同居)、ケン(コンピュータのプログラマーとして働き、職場ではうつであることを明かしておらず、猫と暮らす)、カヨコ(自殺願望があり、犬と暮らす)、ダイスケ(エンジニアの仕事辞めるも、飲酒と喫煙は止められず、サボテンを育てる)―の日常を、一見淡々と、しかしツボツボで、例えば、薬を飲む所だけ連続で見せるとか、ミカとカヨコが愛でるグッズを紹介するなど、ポップなセンスが光る編集で繋いでいく。
日本のうつを巡る状況を把握してもらうための7つの短い文章以外は、NA(ナレーション)もなく、マイクと5人の質問&回答があるだけだ。そう。マイケル・ムーアの如く、製薬会社に突撃するといったあおりは一切ない。とはいえ、マイクは彼/彼女らの懐に静かに深く入っていく。ケンが精神的に癒されるという緊縛の現場や、ミカがついに「うつとではなく、抗うつ剤との戦いである」と言い出す場面まで捉える。
日本では専門家や有名人が書いた脱うつ本、吉田豪の『QJ(クイック・ジャパン)』の名連載「不惑のサブカルロード」はあれど、普通の人々がうつから抜けようと格闘する姿を現在進行形で描いた作品は初めてではないか。マイクの反骨精神と粘り強さに、脱帽!
「 TV Bros」10年12月号掲載のコラムより抜粋
普通の人々がうつから抜けようと格闘する姿を現在進行形で描いた作品は初めてではないか。マイクの反骨精神と粘り強さに、脱帽!
(「TV Bros」10年12月号掲載のコラムより抜粋)
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─エディター 川勝正幸
「♪俺の周りは欝ばかり~」と思わず裕也さんばりに歌いたくなるぐらい、心を病んだサブカル中年が多いわけですけれど、この映画を見たら今度は「♪俺には 抗鬱剤なんかいらない~」と歌いたくなりました。ただ、それには「♪俺の周りが抗鬱剤だから~」ってことになればいいんでしょうけど、そういう状況じゃないから病むんだろうしなあ……。
─吉田豪
病んでいるのではない、ふつうに生きて暮らしている「うつ」の人たちの息づかいが聞こえてくる。
─精神科医 香山リカ
マイク・ミルズはただのお洒落な映像作家ではなく 伝統的なアメリカのドキュメンタリーのスピリットを持っている
─友人・写真家 ホンマタカシ
静と動のコントラスト……騒々しい繁華街と人々が殺気立つ通勤電車の映像に、現代社会の生きづらさを実感させられました。対照的に、うつの人々は穏やかでナイーブで繊細で、動物にも植物にも人にも優しく生きています。本当はまともなのはこっちだと思えてきました。友だちになれそうな魅力的な人々に画面ごしに出会え、孤独感が癒されました。。
─辛酸なめこ
幸せとは何か?アメリカン・ドリームは機能不全家族で育った“成功者”の自己弁護。うつが勝ち組、負け組の男性原理社会に資本主義社会に生きる苦しさを教えてくれている。そこで医療機関を受診すると、社会の仕組み(抗うつ剤)に取り組まれる。うつをきっかけに自分の中に眠る無条件の愛に目覚めよう。
─薬を使わない精神科医・宮島賢也