カンヌを沸かせた『回路』から2年。世界が待望する黒沢清監督『アカルイミライ』がついに完成した。黒沢監督のオリジナル脚本による本作では、相手と判り合えないという事実を受け容れながらも人々が共存している世界が、世代間の対立を交えて感動的に描かれている。登場人物たちには、それぞれの未来が横たわっており、その在り方もまた多様だ。また本作では、初めて黒沢組に参加するキャストやスタッフも多く、そのパワーと個性が監督のもとに集結し、ここに新しい世界(アカルイミライ)が築き上げられた。

『アカルイミライ』の俳優たちも、そのほとんどが黒沢組初参加となる。いま最も注目を浴びているオダギリジョーは、自分をもてあまし、荒々しい気持ちで日々を送る青年雄二の心の内部の成長を見事に表現し、日ごろの明るいキャラクターとは全く違う顔を見せている。雄二が唯一慕う存在、守役の浅野忠信は、一見穏やかでありながら、内面に激しい怒りを抱えた青年の葛藤を、静かな悲しみをたたえたクールなまなざしとともに画面に焼き付け、その印象を決定的なものにした。そして、黒沢監督が初めて自分よりも上の年代の人を起用したという藤竜也は、色気と野性味のある存在感に、切なさと情けなさが入り混じった中年過ぎの世代の思いが加味され、この映画に厚みを与えている。3人の男たちの魅力的なコラボレーションは、完成以前から大きな話題を呼んだ。

 

『アカルイミライ』の撮影は、全編24PHDとDVで行われた。黒沢監督と撮影監督の柴主高秀は、黒が本物の黒そのものとして映ることに当初からこだわっていた。ハーフ・トーンを潰し、影の部分が真っ黒になったことで、画面の至るところで光と闇が鮮明なコントラストを描き、ドラマに自然な臨場感を与えている。また、本作ではライトなしでも撮影をすることが可能なデジタル・カメラの特性が存分に生かされ、東京の街の夜景がとりわけ美しく描かれている。

 
トップ・スタイリストとしてCM、ドラマ、PVなど様々なジャンルで活躍をしている北村道子は、映画の衣装制作でも数多くのクリエイターとのコラボレーションを成功させている。脚本に込められた思いを見事にキャッチしていた彼女は、黒沢監督にも多くのインスピレーションを与えた。監督の衣装のイメージは"この映画の中の人々は、みな貧しい。だけどものすごくカッコイイ"というもの。北村はこのイメージとそれぞれの役の内面性を、構築されたフォルムを壊すことで表現し、黒沢映画のビジュアルに新境地を開いた。
準備稿が出来上がった段階からエンディングの主題歌は、この映画のトーンを決定するものとして重要だった。多くの候補者の中から選ばれたTHE BACK HORNが本作のために書き下ろした主題歌「未来」は、この映画の最年少世代の心情を鮮やかに描き出している。脚本と断片的な映像、そして監督との対話から彼らが創り上げた力強いメロディーは、明るい未来への予見とともにラストを観る者の心の中に導き、この映画を人々の記憶にさらに深く焼き付けることだろう。
 

『アカルイミライ』 bright future
2002年/日本/1時間55分/カラー/1:1.85/DTSステレオ/HD24P・35mm
監督・脚本・編集:黒沢清 キャスト:オダギリジョー、浅野忠信、藤竜也ほか

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