〔きしもと・つかさ〕 1968年、沖縄県名護市出身。映像ディレクター・映画監督。東京芸術学院在学中に初の沖縄県産映画「パイナップル・ツアーズ」(92)の助監督に就く。監督作に「忘却の楽園」(05)、「アコークロー」(07)、「琉球バトルロワイアル」(13)、そして今や全国区となったTVドラマ「琉神マブヤー」(08)を脚本・山田優樹と共に手がけた。2012年に撮った短編映画「ニービチの条件」でロチェスター(アメリカ)国際映画祭特別賞を受賞している。
〔やまだ・ゆうき〕 1966年、沖縄県沖縄市出身。脚本家。TVドラマ「琉神マブヤー」(08)、「琉神マブヤー外伝 Soウチナー!」(09)、「琉神マブヤー2」(10)、そして仙頭武則初監督作品「NOTHING PARTS 71」(14)の脚本を手がける。また2004年から放送され、沖縄の夏の風物詩とも言えるドラマ「オキナワノコワイハナシ」では企画・プロデュース・監修に携わる。2000年には「九州沖縄サミットラジオCM」ACC賞を受賞。
──『ハルサーエイカー』はいわゆる“特撮もの”ですが、敵と味方の区別が曖昧だったり、かなり個性的な作品ですね。
岸本:そうですね。『琉神マブヤー』を作ったときもそうだったんですが、普通の戦隊ものにはしたくないという気持ちがありました。というのも、善悪って、そんな簡単には分けられませんよね。正義も行き過ぎてしまうと正義ではなくなってしまうし、ヒーローであるハルやアイの中にだって善と悪は混在している。だから、単純に正義が悪を倒すということではないし、そういう構図をパロディ化したいという思いもありました。そんな背景があり、「戦わないヒーローを作りたい」という構想が生まれました。
山田:僕は『琉神マブヤー』や『ハルサーエイカー』を作ってきましたが、別にヒーローものや特撮もののマニアではなかったんです。だから、元からフォーマットのようなものにこだわりはなくて、「基本的にみんな仲良くなればいいな」という思いで作ってきました。もっとも、悪がそこにあるからといって、それを単純に滅ぼせば済むという話にはしたくなかった。仮にそれが悪だとしても、どんな部分が人から見て悪に見えるのか、逆に悪の側にはどんな悲しみや憎しみがあるのか、そういう部分を見つめていけば単純な善悪の構図を超えられるんじゃないかという思いはありました。
──そもそも、なぜ「大地」というものを主題にしたのでしょうか?
山田:沖縄でヒーローものを作ろうと思ったときに、ふと浮かんだテーマが「大地」だったんです。沖縄って緑の豊かなイメージがあると思いますが、実は航空写真などを見ると、本島の3分の1以上が都市化していることがわかります。つまり、それだけ大地が失われているというわけです。この作品が、そんな大地について考えるきっかけになったら……という考えが広がり、テーマが決まりました。
岸本:沖縄の豊かな自然風景というのは『エイカーズ』の見どころのひとつですが、実はこれ、現在の沖縄のありのままの姿というわけではないんですよね。沖縄の原風景を感じる部分を意図的に選択して撮影していて、言うなれば「沖縄以外の人が抱いている沖縄のイメージ」になっています。都市化されすぎてしまった今の沖縄には、個人的に疑問を感じています。『ハルサーエイカー』は「大地の沈んだ国」の物語なので、失われつつある沖縄の大地は、その舞台としてふさわしいのかなと。
山田:ハルやアイの必殺技である「クラスト」って、大地のあるところでしか使えないんですよ。コンクリートの上ではハルサーエイカーに変身できない。
岸本:土に触れてそのエネルギーをもらうというのが「クラスト」の本質ですからね。この作品のもうひとつの大テーマである「食べる」という行為も、大地からエネルギーをもらうということですし。
山田:そうですね。だから、おいしくいただく、ありがたくいただくという点では、映像的にもこだわってもらいました。
岸本:特に「クガニ野菜」を摘んでそのまま食べるシーンでは、AKINAさんや萌子さんに「もっとガブリと、気持ちよく食べてくれ」と、何度もやり直してもらって(笑)。クガニ野菜はかわいらしいキャラクターなので、そのまま食べるのは残酷だと思われるかもしれないですが、「心を込めて育てたものを感謝して食べる」ということをちゃんと描く必要があったので、そこはこだわって演出しました。
山田:沖縄には基地の問題があり、今も辺野古のことなどで揺れていますが、一方で基地が返還されるとそこにショッピングモールなどができ、大地が失われてしまうというジレンマもある。何が正解かはわかりませんが、こうやって大地について考えていくことが、50年後も100年後も沖縄が豊かな土地であり続けることのきっかけになったらいいなと。
岸本:劇中でハルはいつも手帳に絵を描いていますが、あれは絵本のような物語なんですよ。ハルがおばあちゃんになり、孫たちが大人になる時代に、「かつてはこういうゴミの問題があった」「ドブって何だろう?」って、振り返るための手がかりになったらいいなと思っています。そうやって「エイカーズ(=沖縄の大地を受け継いでいく者たち)」が形成されていったらなというイメージです。
<劇場パンフレットより抜粋>
【出演】 AKINA 福田萌子 山城智二 知念臣悟 仲座健太 知念臣一郎 ベンビー
池間夏海 津波信一 比嘉恭平 仲嶺眞永 照屋まさお 具志清健 ロリーナ 棚原奏
【監督】岸本司
【脚本】山田優樹 岸本司
【製作】野澤俊雄 福嶋更一郎 山崎浩一 渡口政旬
【エグゼクティブ・プロデューサー】竹之内良和 野崎久也 金子学
【プロデューサー】高山創一 冨里梓
【共同プロデューサー】川本亞美 石山孝紀 河口芳佳 那須惠太朗
【音楽】迎里中
【撮影】小橋川和弘
【照明】鳥越博文
【録音】横澤匡広
【美術】濱田智有希
【スーツデザイン原案】 DOKUTOKU460
【スーツ造形監修】西村喜廣
【編集】又吉安則
【スタイリスト&ヘアメイク】佐藤晃
【アクション】打越陽二朗
【助監督】石田玲奈
【制作担当】後藤聡
【ライン・プロデューサー】池原健