アルゼンチン〜情熱の国の裏側
日本から考えると、地球の裏側に位置するアルゼンチン。お互いになかなか情報の入ってこない位置関係だが、みなさんはこの国に何をイメージするだろうか?昨今の社交ダンスブームと共に人気のタンゴ。チェ・ゲバラ、エビータ、マラドーナなどの著名人たち。カルチャーシーンではフアナ・モリーナ、フェルナンド・カブサッキなど「アルゼンチン音響派」と呼ばれるジャンルのアーティストが今世界中から注目されている。鉱山資源、石油と天然ガス輸出で毎年50億ドル稼ぎ、中南米一高い教育水準の国である。しかし一方で、1990年代以降その社会情勢は混乱し、貧困、失業、暴力、犯罪などの増加による社会不安が顕著になっていることも事実なのだ。
アルゼンチン、ブエノスアイレスにおける貧困、失業問題は、直接には90年代の市場経済化と固定相場制の失敗、政府の放漫財政による赤字が原因とされている。さらに2001年12月には経済危機が表面化、預金封鎖措置がとられ、それに抗議する市民の大規模なデモが当時のデラルア大統領を辞職に追い込む事態へと発展した。このような中で人口3,522万人のアルゼンチンでおよそ400万人の失業者を出す事態となったのである。この数値を日本に置き換えるとなんと1,400万人にものぼる。
近年も「ピケテーロ」と呼ばれる貧困者の抗議行動は収まるところを知らず、単に市内をデモ行進するだけでなく、道路を封鎖したり、ブエノスアイレス市内の警察署を占拠するといった事件も起きている。
さらにアルゼンチンで増大する貧困層において、特に指摘されているのが、貧困人口における若年者(14歳以下)の比率の高さである。2002年5月のINDEC(国家
統計局)のデータによると、総人口の56%が貧困ライン以下の「貧困層 」に属しているが、14歳以下の人口でみると、約831万9千人(14歳以下人口 の70.3%)が貧困層に位置する。さらに絶対貧困ライン以下にある14
歳以下人口は413万8千人以上と推計される。貧困世帯の子供達の栄養状態の悪化、健康への影響は、対処すべき緊急課題であり、例えば、ブエノスアイレス市内及びブエノスアイレス州大ブエノスアイレス圏の15万2千人の14歳以下の子供達が栄養失調状態であると言われている。
『火星人メルカーノ』は単なる娯楽アニメーション映画ではない。このような問題を抱えた社会に対する真摯な批判、風刺に富んでいるからこそ、鋭いブラックユーモアが冴えを見せているのである。このコラムを読んだあなたは、より深く映画の世界を理解し、笑い、驚愕のラストに考えさせられることだろう。
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