『プライベート・ライアン』『ハート・ロッカー』これらはフィクションだった。 ゲームでもフィクションでもない、これが「戦争」の現実。
アフガニスタンの最前線アルマジロ基地。国際平和活動(PSO)という名の下に派兵されたデンマークの若い兵士たちに7ヶ月密着撮影を敢行した。アルマジロ基地はNATOが統率する国際治安支援部隊(ISAF)の一つでイギリス軍とデンマーク軍が駐留している。平和な都市生活から前線基地での軍務。タリバンを敵とする偵察活動という戦争の日常のなか、数回の交戦で極度の興奮状態を体験した若い兵士たちは戦争中毒に陥っていく。
『ハート・ロッカー』の冒頭で「戦争は麻薬である」という言葉が流れるが、このドキュメンタリーではまさにそれが現実のものとして映しだされている。
銃弾がカメラをかすめる。常時4台のカメラで撮影された圧倒的な映像。 あまりの臨場感に現実とフィクションの区別もつかない…!
監督のヤヌス・メッツとカメラは銃撃戦の最前線にも飛び込んで行き、兵士のヘルメットに搭載されたカメラの映像は銃弾が横をかすめるのを劇映画のようなカメラワークと編集で捉えていく。あまりに臨場感あふれる衝撃映像は、まるで「戦争映画」というエンターテイメントを体験しているようで、フィクションなのか現実なのかの区別を不能にする。
戦地へ行くのは、普通の若者たち。あなたは、大切な人を戦地へ送り出すことができますか?
「なぜそんな危険なところへ行くの?」という家族からの問いに、若い兵士はこう答える「沢山のことを学べる。大きなチャレンジだし、冒険でもある」。彼らはキャンプ内で食事をし、冗談を言い合い、戦争ゲームをする。しかしここはまぎれもない戦場で、死と隣り合わせだ。
デンマークのスサンネ・ピア監督が『ある愛の風景』でアフガンに派兵され帰国した兵士と家族の姿を劇映画として描いたように『アルマジロ』でも声高に反戦をうたうわけでなく、若い兵士の行動とその心理の変遷を描いていく。違うのはドキュメンタリーであるということとアフガン戦争の最前基地アルマジロを舞台にしている事である。
これは決して他人事ではない。日本でも憲法9条の歯止めがなくなれば、この映画のように大切な人を戦地へ送り出すことになるのかもしれないのだ。戦争とは、人を殺すこととは、正義とは?ゲームでもフィクションでもない「戦争」を突きつけるドキュメンタリーである。