『チリの闘い』のパトリシオ・グスマン監督が捉えたリーダーもイデオロギーも不在のチリの新しい運動『チリの闘い』のパトリシオ・グスマン監督が捉えたリーダーもイデオロギーも不在のチリの新しい運動

私の想う国私の想う国

監督:パトリシオ・グスマン
原題:MI PAIS IMAGINARIO/英題:My Imaginary Country/
2022 年/チリ・フランス/83 分/スペイン語 /5.1ch/1:1.85
日本語字幕:比嘉世津子
(C)Atacama Productions-ARTE France Cinema-Market
Chile/2022/

予告編

我々はいま、奇跡の瞬間に立ち会う-チリ、サンティアゴの150万人のうねりが、政治を揺るがし、国を変えた
『チリの闘い』で知られる、ドキュメンタリー映画の巨匠、パトリシオ・グスマン監督最新作『チリの闘い』で知られる、ドキュメンタリー映画の巨匠、パトリシオ・グスマン監督最新作

2019年、突然チリのサンティアゴで民主化運動が動きだした。その口火となったのは、首都サンティアゴで地下鉄料金の値上げ反対がきっかけだった。その運動は、リーダーもイデオロギーもなく、爆発的なうねりとなり、チリの保守的・家父長的な社会構造を大きく揺るがした。運動の主流となったのは、若者と女性たちだった。150万の人々が、より尊厳のある生活を求め、警察と放水車に向かってデモを行ったのだった。

それは2021年36歳という世界で最も若いガブリエル・ボリッチ大統領誕生に結実する。

目出し帽に鮮やかな花をつけデモに参加する母親、家父長制に異を唱える4人の女性詩人たち、先住民族のマプチェ女性として初めて重要な政治的地位についたエリサ・ロンコンなど、多くの女性たちへのインタビューと、グスマン監督自身のナレーションが観客に寄り添い、革命の瞬間に立ち会っているかのような体験に我々を誘う。

かつてのチリの大統領サルバドール・アジェンデが始めた「永遠の改革」を捉えた世界最高のドキュメンタリー映画と評される名作『チリの闘い』、チリ弾圧の歴史を描いた 3 部作『光のノスタルジア』、『真珠のボタン』、『夢のアンデス』に続き、グスマン監督は過去の記憶と往来を重ね、劇的に変わりゆくチリを、若者と女性中心の新たな社会運動を前にして希望を信じ、かつて想像した国が実現することに願い込めて女性たちの言葉にフォーカスを当て記録した。

ピノチェト政権下キューバに亡命し、現在パリに住むグスマン監督が、リーダーもイデオロギーもない新たな女性中心の社会運動を目の当たりにして自らカメラで捉えた「私の想う国」ピノチェト政権下キューバに亡命し、現在パリに住むグスマン監督が、リーダーもイデオロギーもない新たな女性中心の社会運動を目の当たりにして自らカメラで捉えた「私の想う国」

1970年から73年にかけてサルバドール・アジェンデ大統領の社会主義政権下で活動していたパトリシオ・グスマンはピノチェト軍事政権誕生によって迫害され、国外で亡命生活を送っていた。

あれから50年が過ぎようとしていた中で、2019年地下鉄の料金値上げがきっかけで、突然チリの民主化運動が動き始めた。グスマンは、すぐにも、遠く離れた祖国に戻り、民主化運動を記録しようと考えたが、コロナ等の状況で、1年近く遅れて、祖国に入る。そこで、グスマンが見た社会運動は、自分が50年前に見た社会主義政権の誕生時の熱狂にも通じるものがあり、懐かしさを覚えたが、50年前の革命とは、様々な面で異なっていた。

50年前は政党や労働組合等の団体が主導の運動であったが、21世紀の革命は、リーダーもイデオロギーもなく、政党とも無関係で、主体となったのは、若者や女性たちだった。かつては、政党や組織が主役であったが、今回は家父長制度が色濃く残るチリ社会の中で抑圧され続けた女性たちが主役であった。グスマンは、かつての社会運動との相違点に戸惑いながらも、女性たちが主役となり、150万人の人々が、より尊厳ある生活を求めて、警察や軍隊に立ち向かう姿に感動し、50年前に自分が想像した民主的な国になろうとしているチリの姿に感動する。この社会運動は、2022年に左派勢力の当時36歳のガブリエル・ボリッチが大統領選で勝利することにより結実する。グスマンは、自分たちの失われた歴史が受け継がれ、理想の国を作っていこうとするチリの姿に大きな期待を寄せる。


映画を見る前に
知っておきたい基礎知識

チリについて

チリの地図

国の基本情報

面積
: 756,000平方キロメートル(日本の約2倍)
人口
: 約1,963万人(2023年 世界銀行データ)
首都
: サンティアゴ
公用語
: スペイン語
通貨
: ペソ
独立
: 1818年に事実上の独立を達成(スペインからの独立)
民族構成
: 欧州系87%、先住民系13%
宗教
: カトリック(15歳以上人口の70.0%)
福音派(15歳以上人口の15.1%)

チリは1970年、社会主義者であるサルバドール・アジェンデが史上初めて民主的選挙によって選ばれたマルクス主義政権を樹立しました。アジェンデ政権は、土地改革や国有化政策を推進しましたが、経済不安や社会混乱が続き、1973年、アウグスト・ピノチェト将軍率いる軍事クーデターによって政権が倒されました。

ピノチェトは軍事独裁政権を敷き、弾圧と拷問が横行しましたが、新自由主義的な経済改革を導入し、外国資本を受け入れ、グローバル化が進展しました。チリは経済成長を遂げましたが、格差は広がり、社会不安は残りました。

1988年の国民投票でピノチェト政権は敗北し、1989年に民主化が進みました。しかし、軍事政権の影響は根強く、チリの政治・社会に長く影響を及ぼしました。

2019年10月、地下鉄料金の値上げが引き金となり、長年の経済的不平等や社会的不満が噴出し、全国的なデモが起こりました。このデモは「尊厳のための闘い」として広がり、政府は新憲法の制定を約束しました。

その後、2021年に36歳の若きリーダー、ガブリエル・ボリッチが大統領に選ばれ、社会改革を進めようとしました。

2022年にチリで行われた新憲法案の国民投票は、2019年のデモを受けて進められた憲法改正プロセスの一環でした。ピノチェト独裁政権下で制定された1980年の現行憲法を改正し、より平等で社会的包摂を重視する新しい憲法を制定することが目標でした。特に、先住民の権利保障や環境保護、ジェンダー平等の推進などが盛り込まれ、チリの社会・経済構造に大きな改革をもたらす内容でした。

しかし、この新憲法案は2022年9月の国民投票で、反対62%、賛成38%という結果で否決されました。 反対の理由には、新憲法案が急進的すぎると感じられたこと、内容が不透明だという懸念、そして多くの有権者が新憲法が不安定さをもたらす可能性を心配したことが挙げられます。また、一部では、保守派や経済界が反対キャンペーンを展開したことも影響しました。

2023年に入ると、チリ政府は新たな憲法制定プロセスを開始しました。改めて憲法評議会が設立され、よりバランスの取れた案を作成するための議論が行われました。

2023年12月17日、チリで新憲法草案の是非を問う国民投票が実施され、反対55.76%、賛成44.24%となり、新憲法草案は否決されました。
この国民投票は、2022年9月に行われた前回の新憲法草案の否決を受けて、2回目の試みでした。今回の草案は、前回よりも保守的な内容で、私有財産権の保護や移民・妊娠中絶に関する厳格な規則が盛り込まれていました。

ボリッチ大統領は、この結果を受けて「国は分極化し、分裂した」と述べ、新憲法を国民投票で制定する試みが失敗に終わったことを認めました。
政府は3度目の改憲プロセスは行わず、今後は議会を通じて年金と税制の改革を進めると表明しました。

この結果により、1980年にピノチェト軍事政権下で制定された現行憲法が引き続き維持されることになります。チリの市場指向型の経済ルールが継続するとの見方から、金融市場への影響は限定的になると予想されています。一方で、憲法改正を求めてきた国民にとっては大きな失望となり、政治に対する不満が高まる可能性があります。

ガブリエル・ボリッチ大統領
(Gabriel Boric Font)

ガブリエル・ボリッチ大統領(Gabriel Boric Font)

ガブリエル・ボリッチは、1986年2月11日にチリのプンタ・アレーナスで生まれた政治家。クロアチア系の移民の子孫で、父と祖父は石油産業に従事していた。

略歴

ボリッチは高校時代から政治に関心を持ち、チリ大学で法律を学んだ。2011年のチリ大学学生連盟総裁選出を機に学生運動のリーダーとして頭角を現し、2014年には代議院議員に当選。2021年の大統領選挙に立候補し、公的年金制度への移行や教育・医療への投資増加などを公約に掲げた。決選投票で保守系候補を破り、2022年3月11日に第38代チリ大統領に就任。就任時36歳で、チリ史上最年少かつ世界で最も若い現職国家元首となった。

大統領就任後の主な活動

  1. 憲法改正への取り組み
    ボリッチ政権は、ピノチェト時代の憲法改正を重要課題としました。しかし、2022年9月の国民投票で新憲法案が否決され、2023年の制憲議会議員選挙でも左派が敗北を喫した。
  2. 経済・社会政策
    就任演説で公正な社会の実現に言及し、格差是正を重要政策として掲げている。
  3. 国際関係
    日本との関係では、就任式に日本政府特派大使が出席し、二国間関係強化への意欲が示された。
  4. 課題への対応
    新憲法案の否決や制憲議会での敗北など、改革推進に苦戦している。

監督

パトリシオ・グスマン

パトリシオ・
グスマン 
Patricio Guzmán

2019年10月、予期せぬ革命、社会的な爆発。サンティアゴの街頭には150万人が、より良い民主主義、より尊厳ある生活、より良い教育、より良い医療制度、新しい憲法を求めてデモを行いました。チリはかつての記憶を取り戻したのです。1973年の学生運動以来、私が待ち望んでいた出来事がついに現実となったのです。
   パトリシオ・グスマン
                  

1941年8月、チリのサンティアゴ生まれ。
チリの大学で映画作りを学んだ後、スペインのマドリードの国立映画学校で映画演出の学位を取得。71年に帰国後、サルバドール・アジェンデ政権発足後最初の12ヶ月間を取材した初の長編『Elprimer año(最初の年)』を制作。フランスの映画作家クリス・マルケルが配給権を取得し、以降マルケルと密接な付き合いが始まる。以後、多くの作品は映画祭で上映され、国際的にも高い評価を得ている。 1972年から79年にかけては、サルバドール・アジェンデ政権とその崩壊に関する、上映時間5時間を超える3部作『チリの闘い』を監督。ピノチェトのクーデター後、グスマンは逮捕され、国立競技場に2週間監禁された。そこで模擬処刑を受け、幾度となく脅迫されたと、のちに語っている。『チリの闘い』は軍事クーデターの勃発により、撮影終了から完成までに数年の歳月を要したが、撮りためていたフィルムとともに1973年にキューバへ亡命、その後スペインそしてフランスに渡りクリス・マルケルの尽力により完成させた。この映画はグスマンの仕事の土台となっており、北米の雑誌シネアストは“世界で最も優れた10本の政治映画の1本”にこの作品を挙げている。
1997年から99年にはチリのドキュメンタリー国際映画祭(FIDOCS)のディレクターも務める。ヨーロッパおよびラテンアメリカのさまざまな学校でドキュメンタリー映画を講じ、著作も数冊発表。『光のノスタルジア』(2010年カンヌ国際映画祭出品)、『真珠のボタン』(2015年ベルリン国際映画祭出品)からなる3部作の最終章となる『夢のアンデス』は2019年カンヌ映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞(ルイユ・ドール賞)を受賞した。

フィルモグラフィー

制作年 日本語タイトル スペイン語原題 英語タイトル
1968 La Tortura y otras formas de diálogo Torture and Other Forms of Dialogue
1969 El Paraíso ortopédico The Orthopedic Paradise
1971 『最初の年』 El primer año The First Year
1972 La Respuesta de octubre The October Response
1975 『チリの闘い』第1部「ブルジョワジーの叛乱」 La Batalla de Chile: La insurrección de la burguesía The Battle of Chile: Part 1
1977 『チリの闘い』第2部「クーデター」 La Batalla de Chile: El golpe de estado The Battle of Chile: Part 2
1979 『チリの闘い』第3部「民衆の力」 La Batalla de Chile: El poder popular The Battle of Chile: Part 3
1983 Rosa de los vientos Compass Rose
1987 En nombre de Dios In God's Name
1992 La Cruz del Sur The Southern Cross
1995 Pueblo en vilo Town on Edge
1997 Chile, la memoria obstinada Chile, Obstinate Memory
1999 La Isla de Robinson Crusoe Robinson Crusoe Island
2000 Invocación Invocation
2001 Le Cas Pinochet The Pinochet Case
2002 Madrid Madrid
2004 Salvador Allende Salvador Allende
2005 Mon Jules Verne My Jules Verne
2010 『光のノスタルジア』 Nostalgia de la luz Nostalgia for the Light
2015 『真珠のボタン』 El botón de nácar The Pearl Button
2019 『夢のアンデス』 La cordillera de los sueños The Cordillera of Dreams
2023 『私の想う国』 Mi país imaginario My Imaginary Country

監督コメント

大規模な民衆の抗議が、まるで山のように発展し、国の歴史を揺るがしました。私たちはその時、現地にはいませんでしたし、コロナ禍ですぐに移動が制限されました。しかし、多くのチリの友人たちが撮影し、その映像を送ってくれました(その中には『夢のアンデス』に出演したペドロ・サラスもいました)。1年後、パンデミックが収束してようやく、私はチームと共にサンティアゴに行き、2回に分けて現地を撮影しました。これはドキュメンタリー映画ではよくあるプロセスで、現実に向き合い、それを撮影し、自分自身もその一部となるのです。最初の撮影は8週間、2回目は3週間でした。私たちは、まるでフィクション映画のように登場人物や状況、場所を選びました。

『チリの闘い』を1972年から1979年にかけて撮影していた時、私は当時のチリ人にとって象徴的なキラパユンというグループの音楽を使っていました。『私の想う国』では、その音楽の一部を再び使用しています。このメロディには、いつも稀で美しい感情が伴います。この映画は1970年のアジェンデの勝利の回想から始まり、若い左派のリーダーが選出されたもう一つの大統領選で締めくくられます。サルバドール・アジェンデは、私の世代にとって、より良い社会と生活の夢を抱かせてくれた存在でした。2021年のガブリエル・ボリッチの勝利でも同じようなことが起こりました。より公正な社会を求める民衆の古い夢が再び目を覚ましたのです。どう実現するか、あるいは実現するかはまだ分かりませんが、私にとっては同じ希望があるのです。


私たちは新しいチリを夢見る素晴らしい若い女性たちにたくさん出会いました。この社会運動がどれほど深く根を張り、運命に導かれてきたのかを実感しました。インタビューを受けた人々がピノチェトやクーデターについて語ることはよくありますが、私たちの主な関心事は社会的反乱と憲法制定会議についてでした。

映画のタイトルを『私の想う国』としました。私にとって、チリはまだ建設中であり、常に考え続けられている国です。そして、その探求は今も続いています。


チリ市民のシュプレヒコール
&メッセージ

片目を隠した女性集団のシュプレヒコール

銃撃の 虐待の 屈辱の共犯者
沈黙するのは共犯者
嘘の共犯 暴力と屈辱の共犯者
沈黙するのは共犯者
無力さと痛み良心の喪失の共犯者
沈黙するのは共犯者
催涙ガスに侮蔑に目をつぶる共犯者
沈黙するのは共犯者

集団“ラス・テシス”の詩

私たちを裁く家父長制 生まれたことで裁き
罰を与える ご覧の通りの暴力で
どこに居ても何を着ても私の罪じゃない
どこに居ても何を着ても私の罪じゃない
どこに居ても何を着ても私の罪じゃない
どこに居ても何を着ても私の罪じゃない
暴行犯はお前!

女性たちの言葉

海外レビュー

  • パトリシオ·グスマンは、信じられないほど民主的で、
    楽しく、独創的で、音楽にあふれ、寛大で、連帯的な反乱を見事に捉えた
      ル・モンド紙
  • パリに亡命している映画監督が母国の民主主義への渇望を力強く、詩的に描く。
    チリを夢見、見つめ、その夢を私たちにも共有させ、より良い未来への信念を伝えてくれる。
      テレラマ紙
  • パトリシオ・グスマンの映画は、未来への希望の種をまいた革命を私たちに見せてくれる
      リュマニテ紙
  • 圧倒的な衝撃! 我々が今の時代に必要としている、新鮮な空気のような映画。
      ティーザー誌
  • この痛みと希望の叫びは美しく、その中でも“想像する国”は、生々しくリアルに時を刻む。
      プレミア誌

コメント

  • 社会というシステムに取り込まれてしまう以前、人間はどう生きていたのか?
    2019年10月18日、チリの人々は自分たちの本来の姿を取り戻していく。
    リズム!リズム!リズム!
    ジャンプしないやつは警官だ!ジャンプしないやつは警官だ!
    システムはリズムに反応できない。反応するのは人間だ。だから人々は鍋を打ち鳴らし、街をリズムで埋め尽くす。システムを維持するための政治家や官僚の言葉ではなく、詩が街を駆け巡る。
    リズムのうねりは改憲へと繋がっていく。憲法は権力者を縛る民衆の武器、国の進むべき方向を示すものだ。これも結局は新しい社会システムを作る営みに帰結するだろう。だが、それでも自分たちが想う国を自分たちで作ったのだ。日本社会にいる僕は、その姿に憧れてしまう。
    ダースレイダー
    (ラッパー/映画監督)
  • 1990年初め、ピノチェト軍事独裁政権にノーを突きつけ、人々が勝ち取った民生移管の瞬間に立ち会おうと、サンティアゴ・デ・チレを訪れた。そこで遭遇したのは、民主化を守ろうと街に繰り出した市民に放水車で水を浴びせるカラビネーロスの姿だった。
    当時とほとんど変わらぬ光景が、この作品でも映し出される。解消されない格差、女性の受難、そして警察の暴力など。社会の理不尽を糾弾する人々の存在は、ある意味、チリの市民社会の健全さを表している。問題を前に「沈黙」するあなたは「共犯者」だと叫ぶ声は、目の前で展開する革命の行方以上に、「民主主義の本質」を、私たちに突きつける。「気づいているなら、声を上げて」と語りかける。
    工藤律子
    (ジャーナリスト)
  • 軍隊が人々の目を狙い撃ちするのは、目撃され、証言されることを怖れるからだ。だが、見ることを禁じ、自分たちの暴力を隠蔽しようとする試みは失敗に終わる。民衆は音で抵抗し、闘いを継続するからだ。私たちには、怒りと変化の音がはっきりと聞こえる。街中で掘り起こされた石、家の鍋やフライパン、そして両手が壁に打ちつけられて共鳴し合う大きな音が。デモにやってきた女性たちは「ラス・テシス」の詩を朗誦し、インタビューに登場する女性たちは静かな力強い声で、変化への希望を語る。多様な音と彼女たちの声が重なり合うとき、抑圧されてきた感情が解き放たれ、新しいチリの到来する音が聞こえてくる。
    菅野優香
    (映画研究者)
  • 運賃値上げに抗議する中高生が地下鉄の改札口を飛び越える。
    「家父長制を燃やせ」と語る女たちが詩を集団朗読し、叫び、笑い、踊る。
    制憲議会議長は先住民の女性――世の中は変えられるとの確信を伝えるフェミニスト映画が誕生した。
    太田昌国
    (評論家・民族問題研究)
  • 思想も指導者も不在の市民の暴動が国の歴史を大きく変えた。
    けれど歴史の波は絶えず形を変え続ける。
    民主主義の可能性と限界を前にもがいている。
    21世紀の私たちはチリの軌跡から何を学ぶべきだろう。
    銃声や鍋の音や詩の合唱が収まったあとで、どんな想いが人々の連帯を紡いでいくのだろう。
    多くを犠牲にして闘った彼女ら・彼らの石つぶてが、未来の大きな碑石の一部として残ると信じたい。
    キニマンス塚本ニキ
    (翻訳者・ラジオパーソナリティ)
  • 意志と意志と意志と意志が重なった時の強さ。
    人間が意志を持つことの底力を突きつけてくる。
    武田砂鉄
    (ライター)