Story
17歳の高校生シュイ・チンは、重工業が盛んな
四川省攀枝花市
で父親と継母と弟の4人暮らし。
お金持ちだけど両親が不仲で悩みを抱えるグループのリーダー、ジン・シー。地元の広告モデルをするほどの美人だけど父親の暴力に怯えるマー・ユエユエ。そんな3人は喧嘩しながらも毎日楽しく高校生活を送っていた。
そんなある日、生まれて間もないシュイ・チンと古い街を捨て、成都へ行ってしまった彼女の実の母チュー・ティンが戻ってくる。憧れていた母との再会でシュイ・チンの生活は一変する。
2020年第33回東京国際映画祭でワールドプレミアとして上映され話題を呼び、中国で最も注目される新進気鋭の女性監督シェン・ユー監督の長編デビュー作『兎たちの暴走』。
エグゼクティブ・プロデューサーにはロウ・イエ監督の『天安門、恋人たち』を制作したローレル・フィルムの代表ファン・リーが務める。またプロデューサーには『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』の女性監督リー・ユーが務め、脚本にはロウ・イエ監督の『シャドウプレイ』で共同脚本を務めたチウ・ユジエが担当した。
シェン・ユーは、若い頃から芸術への関心が高く、北京電影学院の監督科を卒業後、美術の仕事で映画業界に入り、NHKなどのドキュメンタリー撮影や監督、CMディレクターなど俳優以外の映画に関わる仕事を経験してきた。今回初監督をするにあたり、母と娘が娘の同級生を誘拐し殺害したという2011年の実際の事件から着想を得て本作の映画制作に取り組みました。
映画の冒頭は、主人公の高校生シュイ・チンとそのクラスメイトのマー・ユエユエが誘拐され、身代金を要求された父親二人と、シュイ・チンの母親チュー・ティンが警察署に駆け込む場面から始まる。
母親チュー・ティンが車のトランクを開けた場面で、映画は事件が起きる前の街を出た母親チュー・ティンが黄色いスポーツカーに乗り娘の元に戻ってきたところへと時は巻き戻る。
シェン・ユー監督の一番好きな映画作品は、ダニー・ボイルの『トレインスポッティング』で好きな映画監督はポン・ジュノ、デヴィッド・フィンチャーだと言う。そんな監督だけあって、観客を映画の冒頭で一気に物語へと引き込む巧みな構成となっている。
17歳の高校生シュイ・チンは、重工業が盛んな
四川省攀枝花市
で父親と継母と弟の4人暮らし。
お金持ちだけど両親が不仲で悩みを抱えるグループのリーダー、ジン・シー。地元の広告モデルをするほどの美人だけど父親の暴力に怯えるマー・ユエユエ。そんな3人は喧嘩しながらも毎日楽しく高校生活を送っていた。
そんなある日、生まれて間もないシュイ・チンと古い街を捨て、成都へ行ってしまった彼女の実の母チュー・ティンが戻ってくる。憧れていた母との再会でシュイ・チンの生活は一変する。
義理の母に嫌われている17歳の女子高生シュイ・チンは、幼い頃に別れた実母と再会し、その華やかさに魅了される。しかし親しくなるうちに実母が抱える過去のしがらみに巻き込まれ、一切を解き放つための誘拐事件を思いつく。2011年、中国で実際に起きた事件に着想を得た作品で、愛されたいあまりに(あるいは、愛されたいがゆえに)罪を犯す主人公の純心が衝撃的だ。母と娘の情愛をベースに、スリルに満ちたデビュー作を完成させたシェン・ユー監督にお話を伺った。
1977年上海生まれ。北京電影学院を卒業。
コマーシャルのディレクターおよびアート ディレクターとしてだけでなく、映画芸術家および脚本家としても活躍。
2020年 映画『兎たちの暴走』が第33回東京国際映画祭「東京プレミア2020」ノミネート。2016年、本作の脚本が第1回CFDG(中国人若手映画監督サポートプログラム)に入選し、監督協会の助成企画に選ばれた。
Comment
再会した母への痛々しい少女の愛が、ブレーキのない車のごとく悲劇へとまっすぐに突き進む。魅力を余すことなく漂着させる万茜の圧倒的な佇まい。そこには母と娘の一線を越えた愛さえ見出されもする—— 。鏤 められて映えわたるイメージ。桎梏 から逃れて束の間、女たちが車で滑走するシーンの画面の煌めきはどうだろう。『兎たちの暴走』は漆黒の女性映画にして、中国ネオ・ノワールの現在形にほかならない。
廃墟のステージや荒廃したトンネル、さびれた町の風景に黄色が
北村匡平
(映画研究者/批評家)
親子という繋がりの「眩しさ」と「儚さ」—— ―。
主人公シュイ・チンと実母チュー・ティンとの関係のみならず、作中に出てくる幾つかの親子関係はすべて歪でありながら、根底には愛への希求がある。そのむきだし感がたまらなく美しい—— 。
花火のように眩しく儚い“一瞬の美”に心を奪われました。
中村航
(小説家)
四川省の古びた街に住む、それぞれ親との関係に問題を抱えた三人の女子高生。あらゆる困難のなかでヒロインの実の母への想いだけは純真なのに、その想いこそが悲劇を生み出すのが痛ましい。少女たちが一緒に過ごした一晩の幸せな記憶はどこに行ってしまうのだろう。夜の闇のなかでの告白や、走る自動車の窓から顔を出す少女の微笑は永遠ではないのか。大河にかかる橋や打ち捨てられた劇場は、少女たちに何を語りかけるのだろう。
伊藤洋司
(中央大学教授)
家族とは、なんでこんなに面倒くさいんだろう。血が繋がっているだけで、なぜこんなに受け入れられたくて頑張らないといけないのか。
新たな自分の居場所を見つけるために、周囲の人を平気で傷つけてしまう。そんな自分に飽き飽きしていても、結局うっすらと見える希望を信じてしまう女たち。
家族に対する不安から抜け出したいと思っている登場人物の、明らかに間違った選択に走るときの無謀な開放感に、悲しくも共感した。
洪 先惠
(脚本家)
映像全体がとても美しく、四川省南部の小さな街、攀枝花をリアルかつ美的に描写している。 特に映画の中に出てくる四川方言や学校のシーンは、高校時代の思い出を蘇らせてくれた。 日本の皆さんはこの映画を通して、中国南西部の一般人の生活を垣間見ることができる。
ストーリーは実話に基づき、人間の本質を探り、社会現象を暴く洞察に満ちた作品。ディテールやカメラ表現が豊富で、見応えのある映画。 リー・ゲンシーは最近注目されている中国の新世代女優で、彼女の演技に感動した!
楊 小溪/ヤンチャン
(Youtuber)
急速に発展している中国の裏には、時が止まった街が数えきれないほどある
街の中に生きている人々も、まるで迷宮に入ったように未来を失った。家族も家族でなくなり、母親も母でなくなった。
シェン・ユー監督は、鋭い視点でOld Townに閉じ込められたGirlsを主人公にし、現代中国における家庭問題、母娘問題、更に格差問題まで大胆に疑問を投げた。
ワン・チャオ、リー・ユー、リー・ルイジンなど才能ある若い作り手を世に送り出し続ける名プロデューサーファン・リーは、また素晴らしい新鋭を発掘した!
徐昊辰
(映画ジャーナリスト)
本作で印象的に使われる曲が、与非門(ユイフェイメン)という中国のバンドの「楽園」だ。少女たちの束の間の幸せな時、そしてエンドロールで流れる。
この曲は2004年リリースの与非門の代表作『10楽園』に収録され、彼らは中華圏で多くの音楽賞を受賞した。作詞はメンバーの三少と蒋凡、作曲は三少。
与非門は1995年頃結成、一度解散した後2000年に3人で活動を再開した。彼らのエレクトロニック・ロック・サウンドを当時聴いた時、香港に近い広州のバンドらしくお洒落だな、と感じたことを覚えている。
「楽園」は、90年代中華圏を代表するシンガー王菲(フェイ・ウォン)のお嬢さんと言う必要がないほど活躍している竇靖童(リア・ドウ)も自身が主演する映画の主題曲としてカヴァーしているが、確かに、けだるいサウンドに乗る「誰もが楽園を探す/憂いのない楽園を」と歌われるこの曲は今も十分にクールだ。余談だが、少女たちが酔っぱらってそれぞれの“遺言”を話すところでシュイチンが「我願意(私が望むのは…)」と言うと、友人が少しだけ歌うのはフェイ・ウォンの「我願意」…ですよね。
与非門は2020年に中国の大手エンタメ会社「魔登天空」と契約した。が、なんと3人のメンバーのうちキーボードの三少が21年に、そして今年3月ヴォーカルの蒋凡が亡くなってしまう。一人残されたギターの阿慶は音楽を続けるとメッセージしているようだが、阿慶こそ今この歌を噛みしめているのではないか。それでも、素晴らしい楽曲は必ず残ってゆく。
関谷元子
(音楽評論家)