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「世界と日本の水問題」

グローバルウォータ・ジャパン代表
吉村 和就 氏
(国連環境技術顧問)

[ 天の恵みの水資源 ]

最初に、私たちが忘れてはならないのは「天の恵みに感謝しよう」ということです。私たちは、今、水のあることが当たり前だと思っていますが、実は、これは大変なことであり、太陽エネルギーにより私たちの地球で水循環が起こっているのです。 太陽と地球の距離は約1億5,000万㎞ありますが、この距離がちょうど良いのです。もし、地球がもっと太陽に近ければ水は全部蒸発してしまいますし、仮に木星や土星の近くにあると、水があっても氷で全く使えなくなってしまいます。 水は気体、液体、固体とグルグルと循環していますが、雨が降って、もう一度天に戻るまでは12日~14日と言われていますので、地球上の水は約2週間で循環しているというイメージです。その中で私たちは暮らしているのです。

[ 水資源はどのくらいあるのか ]

では、一体、地球上に水資源がどのくらいあるのか、海水と淡水を合わせて約14億km3あります。しかし、97.5%は海水ですから、残りの2.5%が淡水です。 大事なことは、この2.5%の淡水の中の1.7%は氷河や氷山で固定されていて、私たちが使える可能性のある水はわずか0.8%しかないということです。さらに大事なこととして、手で汲んで飲んでも安全な水は0.001%しかありません。この0.001%の水を、地球上の67億5,000万人が分かち合っているというのが現状です。

水資源問題

[ 世界人口と水需要 ]

世界人口が増えると水はどうなるのか、過去100年間で人口が3倍になると、水需要が6倍になりました。つまり、人口の伸び率の2倍が水需要の増加率です。したがって、現在の67.5億人が将来90億人、95億人になると、今でさえ水が足りないわけですから、世界中で水パニックが起こります。これからは世界中が、水資源を確保しなければ生きていけないという状態になるのです。
私が勤めていた国連のデータによりますと、2025年に、例えば世界の人口が90億人になったとすると、その2/3の人口が水に対してストレスを感じると言われています。水ストレスとは、1人1日当たり70リットル以下しか水を使えなくなるということです。
では、どこで、どのように水が使われているのか、やはり、一番使用量の多いのはアジアです。
アジアでは人口が増えていますし、経済も急速に発展しているからです。

[ 世界は水不足に直面 ]

そのような中で世界は大変な状況になっています。本年1月末に開かれたダボス会議では、今後20年以内に世界は水不足に直面し、経済さえも止まってしまうという警告を出しました。先進国のアメリカでも大変です、50州のうち36州が4年以内、つまり、2013年までに水不足で大変なことになるという警告が出ています。
中国も、660都市のうち511都市が水不足であり、さらにその内の110の都市では深刻な事態が起きています。今年の3月には、建国以来はじめて、国家第一級の水不足警報が発令されました。

[ 水の確保は国家の安全保障 ]

これからは水がなければ生きていけないということで、世界各国は「水の確保は国家の安全保障」と考えて取り組んでいます。
よく言われるのは、「21世紀は水の時代」、「国家を挙げて取り組むべき課題」ということです。つまり、昔、アラブの王様が言った言葉「水の一滴は、血の一滴」が、今、全世界の共通語になろうとしているのです。

[ 水をめぐる国家間の争い ]

世界中で水をめぐる国家間の争いが起きています。例えば、ヨルダン川ではイスラエル、ヨルダン、レバノンが争い、ナイル川ではエジプト、スーダン、エチオピアが争い、チグリス・ユーフラテス川はトルコ、シリア、イラクが争っています。
それから、水利権と領土の問題もありますし、中国とメコン川委員会の争いなど、本当に大変な状況になっています。
ここでもう一つ覚えていただきたいのは、ライバル「rival」の語源がリバー「river」だということです。つまり、人間の最初の争いは川の水をめぐる争いであり、それから「ライバル」という言葉ができたそうです。人類の最初の争いは水争いということです。

食料資源問題

[ 主要先進国・食料自給率の推移 ]

先進国の食料自給率を見てみますと、カロリーベースで、フランスが130%、アメリカが119%、ドイツが91%、イギリスが74%となっていますが、日本はなんと40%です。日本の食料自給率は40%しかないのです。

[ 日本も無縁ではない!― 水が足りない ]

世界的に水資源を見ますと、日本の降雨量は世界平均の約2倍あり、日本は過去30年間の平均が1,718㎜となっています。ただし、雨の降る量は2倍ですが、人口も多いので、1人当たりにすると非常に少なくなります。世界平均は1人1年当たり約8,600トンですが、日本は約3,200トン、中国は2,000トン程度です。このように「水はある」と思っていても、1人当たりにすると日本の水資源量は非常に少ないということがわかります。今、食料の自給率を支えている灌漑用水は年間約570億トン、そして、海外から食料に付随して入ってくる水の量が約640億トンとなっています。簡単に言うと、日本の1年間の灌漑用水以上の水が、海外からの農産物、あるいは食料として640億トン入って来ているということです。
現在、日本の国家目標は食料自給率を40%から50%まで上げようとしていますが、一方では、10%上げるためにどのくらいの水が必要になるかという問題があります。わかりやすく言いますと、今、私たちの生活を支えているのは国内の水が58%で、食料に付随して入ってくる仮想水(バーチャルウォーター)が42%となっており、日本の水は海外からの42%のサポートによって成り立っているということです。このような問題が最近になって取り上げられるようになりました。今まで日本は水が豊富で大丈夫だと言われてきましたが、食料自給率を高めようとすると、これから深刻な水不足に直面するわけです。
食品別にどのくらいの水で成り立っているかということを、FAO(国際連合食糧農業機関)が出した数値で見ますと、ハンバーガー一個は2,400リットルの水が必要とされています。日本食はどうかというと、牛丼が2,000リットルで風呂の水が10杯分必要になります。では、水をあまり使わない食品は何かというと、ざるそばが700リットル、味噌汁が20リットルとなっています。実は、日本食はあまり水を使わなくて済むのです。
食料自給率を10%高めるためには、140億トンの水が必要になります。140億トンの水がどのくらいかというと、黒四ダム(黒部ダム)の保有水量が約2億トンと言われていますので、黒四ダムがあと70基必要になります。富士山の保有水量は約1億トンですから、食料自給率を10%高めるためには、富士山があと140個必要になるということです。このような概念です。
今はダムをつくることがほとんど不可能になっていますので、私たちは水を賢く使わなければなりません。

水資源の確保は

そうなると、安全・安心な水をどのように確保するかということが課題になります。そこで誰もが考えるのが海水から真水をつくるという海水の淡水化と、もう一つは、使った水をきちんと処理し再利用する方法です。

[ 海水から真水をつくる ]

海水の淡水化には二つの方法があります。一つは熱を使って水を蒸発させて、冷やしながら取る方法、もう一つは膜を使って回収する方法です。また、この二つを合わせたハイブリッドの方法もあります。
中近東でよく見られるのが多段フラッシュ型造水装置です。これは熱エネルギーを使いながら水を蒸発させて、海水で冷やして真水を作ります。
逆浸透膜造水装置はもっと省エネで、逆浸透膜(RO膜)を使って海水から真水を作るものです。

[ 海水淡水化の課題 ]

ところが、海水淡水化は大変にお金がかかりますし、エネルギーも使います。今はかなり使わなくなったとは言っても、まだまだ大きな電力を使うので、今後、どのくらい省エネにできるかということが課題です。
それから、3.5%の塩分を含んだ海水から真水を取ると、仮に50%回収したとしても塩分濃度7%の排水が出ます。塩分濃度7%の排水を海に放流するとあらゆる生態系が変わってしまうので、これが大きな環境問題となります

[ 下水の再利用 ]

一方、一度使用した水をきれいにしようというのが下水の再利用の考え方です。現在は有機物をバクテリアに食べさせる、活性汚泥処理法によって、下水を浄化して放流しています。 これをさらに浄化しようとすると、例えばろ過、活性炭、オゾン処理、膜処理等の高度処理をしながら水を作ることになります。最近では膜処理技術を用いた下水の再利用水施設も全国に建設されるようになりました。

[ 日本の水に関する課題・・・まとめ ]

日本の水に関する課題としては、これから食料自給率を高めるために、水資源をどのように確保するのかという課題が挙げられます。
それから、洪水、高潮、渇水などの水災害への対策があります。
そして、大事なのは上下水道のインフラ整備です。戦後作られたパイプや浄水場や下水処理場が老朽化しており、特にパイプは40年で取り替えるのが基準ですが、昭和30年代からつくられたものが老朽化して、各地で陥没や漏水事故を起こしています。水道管では年間約1,200ヶ所が破裂し、下水管では年間約4,700ヶ所で道路の陥没を起こしています。このように老朽化が加速度的に進行しています。
現在は蛇口をひねると安全な水道水がでてきますが、今後は適切な維持管理や古くなった施設のリハビリ等、国を挙げて取り組む必要があるでしょう。
また水問題は、その裾野が広く、多くの利害関係者がおりますので、それらの叡智を集めて日本の水問題解決に努力することが今求められています。

 
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