エリック・クラプトンとデュアン・オールマンのギターによる「いとしのレイラ」。音楽ファンならずとも、だれもが一度は耳にしたことのある、1970年の名曲である。だが、誰の手によって、この曲がミックス、またプロデュースされたかを知る人は、ほとんどいないのではないだろうか。
アメリカの音楽界を語る上で欠かせない人物が、この映画の主役トム・ダウドである。彼は、ディジー・ガレスピー、レイ・チャールズ、ジョン・コルトレーン、アレサ・フランクリン、オールマン・ブラザーズ・バンド、エリック・クラプトン、ロッド・スチュワートといった、時代時代の先端を担ったアーティストたちのレコーディングにサウンド・エンジニア、またプロデューサーとして関わり、数々の名曲を生み出してきた。若くして、アトランティック・レコードに入り、2002年にその生涯の幕をおろすまで、アトランティックと共に過ごしてきた彼の人生は、まさにアメリカのサウンド技術の歴史に反映されると言っても過言ではない。モノラル・トラックからステレオ、8トラック、そしてマルチトラック・レコーディングへと変遷をたどってきたアナログのレコーディング時代の常に先駆者だったのだ。
『トム・ダウド/いとしのレイラをミックスした男』は、エリック・クラプトンとデュアン・オールマンの出会いから、「いとしのレイラ」が生まれた秘話や、レイ・チャールズ、フィル・ラモーンなど、アーティストや関係者たちの貴重な証言を交えながら、彼の77年間の人生を追ったドキュメンタリー作品である。また、アメリカ音楽におけるレコーディング技術の歴史を垣間見ることができるなど、音楽的価値に富んだ内容となっている。
日本をふくむ世界各国で、デジタル・レコーディングがほとんどを占めている現在、あらためて“耳で聞く”技術に、感嘆せざるを得ない。