日本で唯一無二の死体写真家、釣崎清隆が愛と暴力の天地コロンビアに魅せられ、その国の中でも特に危険なボゴタのカルトゥーチョと呼ばれるゾーンに導かれ、そこにある葬儀屋街で老エンバーマー、フロイラン・オロスコと出会った。
月に100体近くの死体をエンバーミングするオロスコの前職は警察官として農民、自由党員を迫害した過去があったという。釣崎はエンバーマーという職業とコロンビアの血まみれの現代史を生き抜き、暴力の犠牲になって死んでいった人々をエンバーマーとして数知れず弔ってきたオロスコという人間に強い印象を受けた。カルトゥーチョに潜入し、3年に及ぶ長期取材を敢行し、一人のエンバーマーの取材を通じて血と暴力の本質に挑んだ。
これは単なる死体映画ではない。人間の生と死、尊厳と猟奇を問う残酷物語であり、あまりに衝撃的な愛と暴力の映像叙事詩である。社会派かグロか?美か悪趣味か?判断するのはあなただ。
フロイラン・オロスコはこの世界一忙しい葬儀屋街の最長老エンバーマーである。その40年にも及ぶキャリアの前は警察官だった。
コロンビアの首都サンタフェデボゴタの、大統領府からほど近いところにある、メディシナ・レガル(法医学鑑定所)を中心に葬儀屋が軒を連ねる界隈は、エル・カルトゥーチョ(火薬庫)と呼ばれ、ボゴタ中でも特に治安の悪い無法地帯である。麻薬、少女売春、銃器、殺人、サタニズム、あらゆる悪徳の巣窟であり、ジョンキ(ジャンキー)、シン・テチョ(ホームレス)、ガミネス(ストリート・チルドレン)の一大ゲットーでもある。
ここは毎日飽きもせず人がよく死ぬ。警察はろくに検視もせず毎日のゴミ回収のように死体を運んでいく。それは現場から1クアドラ(ブロック)先のメディシナ・レガルに運ばれて解剖され、検死が下りると向いの葬儀屋に引取られる。死体は殺害現場から100メートルも移動していない。いったいこの狂ったミニマリズムは何なのだろうか?
フロイラン・オロスコはこの世界一忙しい葬儀屋街の最長老エンバーマーである。その40年にも及ぶキャリアの前は警察官だった。
オロスコはトリマの出である。彼が18歳のときにトリマで農民25万人が武装蜂起した。彼は軍に入隊して討伐に加わったが、ついにトリマは農民に奪われた。復讐の怒りに燃えたオロスコは除隊後、警官になって農民、自由党員を迫害した。
そしてオロスコは27歳のときに突如エンバーマーに転身した。そして一心不乱に、それまで自ら手をかけて殺した者の数をはるかにしのぐ量の死体をエンバームしてきた。償いの意味があるのかどうかはわからないが、彼はほぼ毎日休まず、月に約100体もの死体を淡々と処理してきた。どんな大男の死体も1人で取回す頑強な体躯を持つタフを絵に描いたような男、顔に刻まれた皺の1本1本がコロンビアの“ラ・ビオレンシア(暴力の時代)”の苦悩を雄弁に物語る。
オロスコは低所得者のために最低限のサービスを安値で提供するスタンスのエンバーマーだ。遺体の身体を洗ったり、鼻や口に綿や布を詰めたり、服を着せたり、化粧を施したりと、日本の湯灌業者がやるような作業もひと通りやる。
エンバーマー、フロイラン・オロスコは腹を大胆にかっさばき、内臓を体内から切り離し、血を流し出して体腔を水洗、臓器を戻してバラバラに切り裂き、ホルマリンをぶっかけ、上からボロ布を押し込み、タコ糸で縫って閉じる。
オロスコが使う道具は医療器具に限らない。というか医療器具は高価であまり使わない。スカルペル(メス)を使ったりもするが、精肉用のナイフのこともある。精肉用ナイフは、考えてみれば当然だが、非常に実用的で使い勝手がよい。
時にオロスコの仕事は野蛮に見える。しかし熟練の技術に裏付けられた所作は無駄がなく、流麗で、儀式と呼んでいいほどに美しい。女性の遺体に、厳ついオロスコが上手にストッキングをはかせたり、顔に繊細なメイクを施す様子はユーモラスではあるが、彼の仕事に対するプライドと情熱が伝わってくる。
そして今、老エンバーマーが死を間近に意識しながら、死体を処理する姿はもはや“司祭”であり、血みどろのコロンビアの現実への祈りを浮彫りにしている。
いったい今までに5万体もの死体を死化粧し、弔ってきた男の最期の死に場所とは?
この作品は、永年にわたり全土を暴力が、支配し続けている、世界でもっとも治安の悪い国コロンビアで、その国内でももっとも危険な街で働く、世界でもっとも忙しいひとりの老エンバーマーの、延々と単調に繰り返す、異常な日常の記録である。
それはあまりにシンプルでミニマルだ。その街エル・カルトゥーチョには、死体の他には何もない。ただ暴力の残骸と、祈りがあるだけだ。
僕は奪われるだけ奪いつくされた後に、それでも人間に残った愛と尊厳について描きたいと思った。
僕が初めてフロイラン・オロスコに会ったのは1995年9月のことである。コロンビアの死体写真家アルバロ・フェルナンデスにエンバーミング現場の撮影を勧められて彼を紹介されたのだった。そして僕は、エンバーミングよりもまず彼の燻し銀の容貌に強烈な印象を受け、ニヒルな暗さ、簡潔で自信に満ちた言動にも魅了された。動かない死体ならスチールで撮る。オロスコはムービーで撮る価値があるし、撮りたいと思った。
1996年、僕はかつて『ジャンク』、『デスファイル』といった残酷ドキュメンタリービデオをリリースしていたAVメーカー、V&Rプランニングから、『デスファイル』の新作の素材撮影をオファーされた。そこで真っ先に撮ったのがオロスコの仕事であった。僕がオロスコに支払ったギャラは500ドル。その時点では、オロスコにとって、そして僕にとっても、このとき一回きりの撮影のはずだった。
結果的にいうと『デスファイル』の新作は実現しなかった。日本における残酷表現のパージは着実に進行していた。まったくこんな世紀末になるとは、僕にとって想定外だった。
しかし僕はお構いなしでオロスコの取材を続行していた。そして、会うとほとんど無意識にVを回していた。
そんな僕に対してオロスコはなぜか追加料金を請求することがなかった。オロスコは殉教者のように無愛想で禁欲的だ。いったい彼は、はるばる日本から死体を撮りにやってきた僕のことをどう理解していたのだろうか?お互い会話もあまりなく、僕は彼にとって別段邪魔になるわけでもないので、放っておかれたのだ。僕もそういう立場が心地よかった。奇妙な関係だった。
この関係がいつまで続くのかと何度か考えたことがあったが、まさか1998年2月、オロスコの死をもって突然打切られるとは、僕は考えたこともなかった。それほど彼の存在感は圧倒的だった。死因はヘルニアだった。つまりは死体5万体分の体重がオロスコを押し潰したのである。職業病だった。残酷な話だが、名誉の殉職である。
取材はほとんど無意識的で感覚的なものだったので、今から思うと後悔も多い。時にオロスコを厳しく追及するような取材も必要だったのではないかとも思う。僕はひたすら彼に寄り添っていただけだった。それが大事なことのように思えた。
一度オロスコに尋ねてみたことがある。 「たとえば、死姦ビデオを撮ることって可能なのかな?」 「男優のギャラ込みで1500ドルだ」 ずいぶん具体的な数字だ。 「参考までに聞くけど、スナッフ・フィルムとかは?」 オロスコはにやりと笑った。 「ふふふ、金あるのか?高いよ」
僕はからかわれていたのだろうか?しかしオロスコが死体の中にコカインを詰めてアメリカに密輸したことがあるという話は本当のようだ。実際に麻薬戦争全盛期、遺体の中からコカインが発見された事件は頻発した。密輸法の中でも、コカインを詰めた赤ん坊の遺体を母親役の女性に抱かせて運ぶ方法はよく使われた。カメラが回っていないときにオロスコはそんな告白もした。
オロスコが都市伝説の世界の住人であろうとなかろうと、僕はそもそも物事の真実にはあまり興味がない。僕が目指すのは硬派なドキュメンタリーではなく、美しい叙事詩だ。
僕は膨大なビデオ素材をともかく一本の作品にまとめ、1999年に『死化粧師オロスコ』が完成した。
釣崎清隆
1966年富山県生まれ。
AV監督を経て死体写真家となる。
1995年NGギャラリーにて初個展。世界各国の無法地帯や紛争地域を渡り歩き、これまで撮影した死体は1000体以上。主な著書に『ハードコア・ワークス』(NGP)、『死体に目が眩んで』(リトル ・モア)、『ファイト批評』(アイカワ・タケシ氏との共著/洋泉社)がある。釣崎は1995年にコロンビアはサンタフェデボゴタの無法地帯、カルトゥーチョのエンバーマー、オロスコに強い印象を受け、3年に渡って取材を敢行、血と暴力の本質にせまる問題作『死化粧師オロスコ』を完成させた。
初回限定版DVD:死化粧師オロスコ
定価 \9,975 (本体価格 \9,500)
販売価格 \7,481 (本体価格 \7,125)
★3/27までのご予約で定価の25%OFF
★“死体”トランプ、Tシャツ、 B3ポスター、手術用マスク付き!
監督・撮影:釣崎清隆 撮影協力:アルバロ・フェルナンデス・ボニージャ 編集:三枝進・釣崎清隆
ULD-389 | DVD | 1999-2005年作品|本編100分|カラー|4:3|日本|スペイン語|日本語字幕|ステレオ|片面一層
通常版DVD:死化粧師オロスコ
定価\3,990 (本体価格 \3,800)
販売価格\2,992 (本体価格 \2,850)
★3/27までのご予約で定価の25%OFF
監督・撮影:釣崎清隆 撮影協力:アルバロ・フェルナンデス・ボニージャ 編集:三枝進・釣崎清隆
ULD-389 | DVD | 1999-2005年作品|本編100分|カラー|4:3|日本|スペイン語|日本語字幕|ステレオ|片面一層
2008/3/22(土)より UPLINK X にて
上映終了後、釣崎監督とゲストを招いてのトークショー開催!
3/22(土)20:45
┗ バクシーシ山下(AV監督)
3/23(日)20:45
┗ 橋爪謙一郎(現役エンバーマー)
3/26(水)20:45
┗ ヴィヴィアン佐藤(非建築家/美術家)
3/27(木)20:45
┗ 早田英志、釣崎清隆、加藤健二郎(バグパイプ奏者)
3/28(金)20:45
┗ 松嶋初音(タレント/女優)
4/2(水)20:45
┗ 清野栄一(DJ/作家)、曽根賢(PISSKEN)
※清野栄一氏は都合により出演できなくなりました。ご迷惑おかけしますが何卒ご了承下さい。
4/4(金)20:45
┗ 名越啓介(カメラマン)、曽根賢(PISSKEN)
★3/27(木)20:45 start!!!
この日はコロンビアより帰国中のエメラルド・カウボーイこと、早田英志氏を迎えトーク及びバグパイプライブイベント開催!
ゲスト:早田英志、釣崎清隆トークショー!
『ジャンクフィルム』ロッテルダム映画祭凱旋記念上映!
3/27(木)18:30~ 料金:\1,000
ゲスト:石丸元章、釣崎清隆トークショー!
→詳細はこちら
→『ジャンクフィルム』公式サイト
肉体は朽ちるが、魂は永遠だ!!肉体と魂を分離させないのが、死体化粧師だ!!
― 上野正彦
(元東京都監察医務院長/法医学評論家)
神や自然が化粧を必要としないという真理を、コロンビアの死化粧師の手つきは、未来の芸術家たちに伝え続けるだろう。『OROZCO』、つまり、我々の魂の永遠の番人は、何者によっても盗まれ得ぬ火であり、不滅である。
― モブ・ノリオ
人間は死ねばモノになる。釣崎清隆は無慈悲なまでに即物的な死体写真で、オロスコは無造作な死体の解体で人の死を悼むとはどういうことなのか教えてくれるのだ。
― 柳下 毅一郎(映画評論家、特殊翻訳家)
我々の人生のすべて(思い出や計画、愛や恐怖)は虚空に漂う肉塊の分泌物にすぎないのだということをもっとも直接的な方法で思い起こさせる……目を背けたくなるところもあるが、喜ばしくも示唆を与えてくれる映画だ。
― ギャスパー・ノエ(映画監督)
釣崎清隆公式サイト
http://www.tsurisaki.net/
ザイーガ
http://blog.livedoor.jp/parumo_zaeega/
残酷動画
http://dougatodouga.blog101.fc2.com/
ScaryBlog
http://scaryblog.blog104.fc2.com/
東京キララ社
http://blog.dokei.jp/
YOUTUBE予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=eVFEze22JbQ
X51.ORGに釣崎氏のロングインタビューが掲載されています
X51.ORG : "死体なき国の死体写真家" ― 釣崎清隆インタビュー