人は生きている限り身体のどこかを動かしている。そして身体の動きの大半は、意識せずしての動作である。
この映画は意識していない身体の動かし方、あるいは意識していても固定概念に捕われた身体の動かし方をしている私たちに、身体操作術をもってして眠っていた"可能性"を呼び起こそうとする甲野善紀を追ったドキュメンタリーである。
養老孟司氏が「強さや技術はもちろんだが、その立ち居振舞いの美しさに目を奪われた」と賛美した甲野善紀の追求する身体操作術。桑田真澄投手に指導をし、宇宙飛行士の野口聡一氏に宇宙での体の使い方を教え、桐朋高校バスケットボール部をインターハイに導くなど様々な人、分野に応用されている。また身体のプロフェッショナルに限らず、楽器演奏、舞踏、介護や日常生活の動作にも応用されている。
監督は『≒森山大道』『≒舟越桂』『曖昧な未来』『ピンクリボン』などのドキュメンタリーを撮り続けている藤井謙二郎。藤井監督が制作する手法は取材対象の人物の内面に迫りその人物を描こうとするのではなく、あくまで野生動物を観察するかのごとき取材対象と距離をおいて、しかし執拗に撮影し、映されたものを頼りに、日々変化する対象者を捕らえようとする。
このドキュメンタリーでは甲野善紀の身体操作術を据え、本人にインタビューし様々な分野での身体操作の応用法、またそれを取り入れようとする人々のインタビューを通して『甲野善紀身体操作術』を探っていく。
甲野善紀は言う「運命とは決まっているが同時に自由である」と。この映画は、身体を通じてそれを実感するために武術を学びはじめたという甲野善紀の考え方を探っていくドキュメンタリーでもある。