今年は、戦後70年ということで、多くのメディアで特別番組や特集が組まれています。
また、「安保法案」の審議が参議院で始まっています。可決したい政府は「平和安全法制」と呼び、反対派は「戦争法案」と呼んでいます。 アップリンクでは、2013年1月に劇場公開した『アルマジロ』というデンマークのドキュメンタリー映画を、8月15日の終戦の日を挟み、YouTubeにおいて72時間無料公開します。
『アルマジロ』は、国際平和活動(Peace Support Operations)という名の下に、アフガニスタンの最前線アルマジロ基地に派兵されたデンマークの若い兵士たちに7ヶ月密着撮影を敢行したドキュメンタリーです。彼らはNATOが統率する国際治安支援部隊、ISAF(International Security Assistance Force)の任務でアフガンに派兵されました。(ISAFは2014年末に活動を終えています)
先ごろ6月7日にBS-TBSで放送された『週刊報道LIFE』という番組の中で、『アルマジロ』のヤヌス・メッツ監督は、スカイプ・インタビューで次のように語っていました。
「多くのデンマーク人にとって戦闘ではなく平和維持活動をしていると思っていた間は、アフガニスタン戦争は良い戦争でした。しかし、このドキュメンタリーが映し撮ったのは、アフガニスタンで起こっていたことの9割は戦闘であるという現実でした。平和維持ではなかったのです。この映画が政治的な面で、どれだけの影響を与えたのかを説明するのは難しいのですが、デンマーク政府や政治家が軍の方針について改めて議論するきっかけとなったことは確かだと思います」
このドキュメンタリーを配信することで、「安保法案」が議論されている戦後70周年の今、「平和維持」という名の下で行われる現在の戦争を考えるきっかけになればと思います。ぜひ、この機会にご覧ください。
『アルマジロ』劇場公開時、伊勢崎賢治さん(東京外国語大学大学院教授)を招いたトークショーで語られたことを、本作の公式Facebookに掲載しました。2年以上前のトークショーですが、今、改めて読み直すと示唆に富んでいるので、以下に再掲します。
イベントの中で最も反応が大きかったのは、「今の日本には、戦争が始まる要素がそろっている」という指摘だ。これまでの歴史を振り返ると、大きな戦争が起こる時には以下の条件が出そろっていることが多いという。それは「リーダーシップの不在」、「若者の失業率が高い」ことに加え、「人々の恐怖心を掻き立てる要因が存在する」ということだ。
この条件がそろった時、戦争を引き起こそうとする「アクター」と呼ばれる役割の人間が出てくることがあるという。例えば政治家は民衆の不安を煽ることができるし、あるいは原発事故以降の日本については「軍需産業の人間が軍備化を進める格好のチャンスである」とも指摘した。会場からも、「まさに今の日本には戦争が始まる要素が揃っているのでは」という声が上がった。
伊勢崎氏によれば、戦争に至る要因は国家権力の側だけにあるのではなく、むしろ人々の側の「恐怖心」によるところも大きい。先に民衆の恐怖心があり、更に国家権力がそれを煽る、というプロセスの果てに恐怖心が熱狂に転化して戦争は起こるのだという。この恐怖心が加速して戦争へと至るプロセスを示す概念として、「セキュリタイゼーション」という安全保障上の用語も紹介された。
さらに伊勢崎氏は、こういった恐怖心は絶対に生じるものであり、決して「良し悪し」の問題ではないとも付け加えた。その上で、重要な事は「恐怖心の連鎖から紛争に至る仕組みを、しっかりと人々が認識することである」とした。
また伊勢崎氏は現在の世界情勢の中で日本が果たすべき役割についても言及し、アメリカの戦争に黙って付き合うのではなく、冷静に日本の国益を考えてアメリカと付き合っていくことが必要だと述べた。憲法9条の効力について問われると、「(9条は)モラル的な歯止めにはなっているが、特措法の成立でなし崩しになる可能性もある」と示唆した。
浅井隆(アップリンク社長)
アフガニスタンの最前線アルマジロ基地。国際平和活動(PSO)という名の下に派兵されたデンマークの若い兵士たちに7ヶ月密着撮影を敢行した。アルマジロ基地はNATOが統率する国際治安支援部隊(ISAF)の一つでイギリス軍とデンマーク軍が駐留している。平和な都市生活から前線基地での軍務。タリバンを敵とする偵察活動という戦争の日常のなか、数回の交戦で極度の興奮状態を体験した若い兵士たちは戦争中毒に陥っていく。映画『ハート・ロッカー』の冒頭で「戦争は麻薬である」という言葉が流れるが、このドキュメンタリーではまさにそれが現実のものとして映しだされている。
映像特典
・未公開シーン:アフガン国軍の負傷者を護送
・予告編(日本語版)
Amazonで購入する
昨年日本公開された『ローン・サバイバー』の舞台でもあったアフガニスタンの"死の谷"、コレンガル渓谷で任務に就く米軍小隊に1年密着したドキュメンタリー。戦争とはいかに機能し、そこで戦う若者たちに何をもたらすのか。治安維持の名の下に行われた対テロ戦争の現実を映し出す。
Part.1の監督は、英国人報道写真家のティム・ヘザリントンと米国人戦場ジャーナリストのセバスチャン・ユンガー。ティム・ヘザリントンは、本作が第83回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた翌月の2011年4月、リビアの内戦を取材中に被弾し命を落とした。生前のへザリントントとアウトテイクシーンから続編を一緒に作ることを約束していたユンガーが、4年後に一人で完成させたのがPart.2である。
原題 RESTREPO : one platoon, one valley, one year
監督 ティム・ヘザリントン セバスチャン・ユンガー
時間 93分
制作 2010年
■2010年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート
■2010年度サンダンス映画祭アメリカンシネマ・ドキュメンタリー部門グランプリ受賞作
■2010年度全米監督協会賞ドキュメンタリー映画監督賞ノミネート
原題 KORENGAL : this is what war feels like
監督 セバスチャン・ユンガー
時間 84分
制作 2014年
著作で数々の賞をうけた歴史社会学者の小熊英二、初の映像監督作品。
サッカーボールを銃に持ち替えた青年
非暴力を貫きカメラで記録し続ける青年